「毎月の養育費は払い続けたいが、カードローンや消費者金融の返済が重く、生活が回らない」。このような状況で、自己破産や個人再生をすれば養育費の負担まで軽くなるのか、逆に養育費を止めてしまってよいのか、と迷う方は少なくありません。
結論から申し上げると、養育費を支払いながらでも、他の借金を対象とする債務整理を検討することはできます。ただし、養育費は一般の借金とは異なる扱いを受けるため、「自己破産すれば養育費も消える」「個人再生で養育費も一律に減る」という理解は正確ではありません。
本記事では、令和8年4月1日に施行された改正民法(養育費の先取特権・法定養育費など)を踏まえ、自己破産・個人再生・任意整理で養育費がどう扱われるか、未払いがある場合や差押えが心配な場合に何を確認すべきかを、一般の方向けに整理します。個別の結論は資料や事情によって変わりますので、判断に迷う場合は早めにご相談ください。
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Contents
結論|養育費を払いながらでも借金整理は検討できる
養育費と借金の関係を整理すると、次のようになります。いずれも個別事情により異なりますので、目安としてご覧ください。
| 手続 | 養育費の扱い | ポイント |
|---|---|---|
| 任意整理 | 対象外(減額されない) | 主に貸金業者・カード会社などとの返済条件を見直す手続。将来の養育費を前提に、他の借金を圧縮できないか検討します。 |
| 自己破産 | 非免責債権(残る) | 免責許可を受けても支払義務は残ります(破産法253条1項4号)。 |
| 個人再生 | 非減免債権(減らない) | 手続開始前の未払分は減額の対象外です(民事再生法229条3項)。 |
さらに、支払中の養育費・過去の未払養育費・これから発生する将来の養育費は、それぞれ扱いが異なります。とくに将来の養育費は債務整理の対象にならず、支払い続ける必要がある点が出発点になります。
実務では「養育費を支払わなくてよい方法」を探すのではなく、「将来の養育費を家計に組み込んだうえで、他の借金をどの手続で整理するか」を検討することになります。
養育費・非免責債権・債務整理の基礎知識
養育費とは、子どもを監護していない親が、子どもの生活・教育などのために負担する費用(子の監護に要する費用)です。親の扶養義務に基づくもので、子どもの権利に関わる費用として、一般の貸金債務とは区別されています。
非免責債権とは、自己破産で免責許可を受けても支払義務が残る債権をいいます。養育費のほか、税金、婚姻費用、故意の不法行為による損害賠償などが含まれます。非減免債権とは、個人再生で再生計画による減額(減免)の対象にならない債権をいい、養育費もこれにあたります。
債務整理には、主に次の三つがあります。任意整理は、裁判所を通さず、貸金業者などと将来利息の免除や分割回数の見直しを交渉する手続です。個人再生は、裁判所の手続で借金を大幅に圧縮し、原則3年(最長5年)で分割弁済する手続で、住宅ローン特則を使えば自宅を残せる場合があります。自己破産は、裁判所の手続で原則としてすべての借金の支払義務を免除してもらう手続です。どれが適切かは、収入・資産・借金額・未払養育費・住宅・自動車・保証人・税金の滞納などによって変わります。
令和8年4月施行の改正民法と養育費
令和6年に成立した「民法等の一部を改正する法律」(令和6年法律第33号)が、令和8年4月1日に施行されました。養育費に関係する主な改正は次のとおりです。
養育費への先取特権(民法308条の2)
養育費(子の監護費用)に「一般の先取特権」という優先権が認められました(民法306条3号・308条の2)。これにより、公正証書や調停調書などの債務名義がなくても、父母間で作成した取決め文書に基づいて、相手方の財産の差押えを申し立てられる場合があります。
ただし、先取特権によって優先的に回収できる額には上限があり、法務省令で子ども1人当たり月額8万円とされています。これを超える部分の回収には、従来どおり債務名義(調停調書・公正証書など)が必要です。また、施行前から養育費の取決めがある場合は、施行後に発生する養育費が対象になります。「すべての養育費が無条件で差押えできるようになった」わけではない点に注意が必要です。
法定養育費(民法766条の3)
離婚時に養育費の取決めをしないまま離婚した場合でも、取り決めるまでの間、暫定的・補充的に一定額を請求できる制度です。金額は法務省令で子ども1人当たり月額2万円とされています。これは、父母間で取り決めるべき養育費の標準額や下限額を定めるものではありません。原則として、施行日(令和8年4月1日)以後に離婚した場合に適用され、義務者に支払能力がない場合など一定の例外もあります。
裁判・執行手続の利便性向上(ワンストップ手続)
養育費を回収するための民事執行について、地方裁判所への1回の申立てで、財産開示・第三者からの情報取得・給与債権の差押えという一連の手続を進められる仕組みが整えられました。相手方の勤務先や口座が分からず回収を諦めていたケースでも、手続が利用しやすくなっています。
債務整理ごとの進め方
任意整理と養育費
任意整理は、貸金業者・カード会社・ローン会社などとの返済条件を見直す手続であり、養育費を減額する手続ではありません。実務上は、将来の養育費を支払える家計を前提に、他の借金の毎月の返済額を圧縮できないかを検討します。対象から外す債権者、保証人の有無、給与差押えの状況、住宅ローン・自動車ローンなどの個別事情を確認したうえで、現実的な返済計画を組み立てます。
自己破産と養育費
自己破産で免責許可を受けても、養育費の支払義務は残ります(非免責債権)。ここで重要なのは、時期による区別です。
| 時期 | 区分 | 扱いの概要 |
|---|---|---|
| 手続開始前の未払養育費 | 過去分 | 他の借金とともに手続の中で扱われますが、免責の対象にはなりません。 |
| 手続開始後の将来養育費 | 将来分 | そもそも破産手続とは無関係に、これまでどおり支払う必要があります。 |
また、破産を検討する場面で、特定の相手にだけ返済する行為は「偏頗弁済」として問題となる可能性があり、注意が必要です。養育費との関係は事案により異なりますので、資料を確認したうえで判断します。支払いが苦しい場合でも、一方的に養育費を止めるのではなく、資料を確認して適切な手続を検討することが大切です。
個人再生と養育費
個人再生では、手続開始前に発生した未払養育費は、再生計画による減額の対象になりません(非減免債権)。一方、手続開始後に発生する将来の養育費は、再生手続の外で支払い続ける必要があり、その負担は再生計画をきちんと履行できるか(履行可能性)の判断に影響します。住宅ローン特則を使って自宅を残したい場合も、養育費の負担を家計に織り込んだうえで、返済が続けられるかを慎重に確認する必要があります。
どの手続が向いているかは、収入・資産・未払養育費・住宅・保証人などによって変わります。資料を確認することで、法律上の見通しを整理しやすくなります。
養育費の滞納・差押えが心配な場合
養育費の滞納があると、給与や預金などへの差押えが問題になり得ます。令和8年4月施行の改正により、養育費回収の実効性が高まる場面があるため、滞納をそのままにしておくリスクは以前より高くなっている面があります。借金の返済・養育費・税金・家賃・住宅ローン・生活費の優先順位を、資料に基づいて整理することが必要です。差押えを受けてからでは選択肢が狭くなる場合もありますので、早めの確認をおすすめします。借金問題全体の進め方は、借金問題(債務整理)の取扱内容を見るページもご参照ください。
養育費の支払いが苦しいとき
収入減・病気・失業・再婚・扶養家族の増加などの事情があっても、一方的に養育費の支払いを止めることは避けるべきです。まずは相手方との協議や、家庭裁判所の養育費減額調停などの手続を検討することになります。減額が認められるかどうかは個別事情により異なり、一律には判断できません。減額の要否も含めて、資料を確認したうえで方針を整理することが現実的です。離婚条件の見直しについては、離婚・男女問題の相談内容を確認するページもあわせてご覧ください。
養育費を受け取る側の方へ
相手方(支払う側)が自己破産や個人再生をしても、養育費の請求権が当然に消えたり、一律に減ったりするわけではありません。もっとも、実際に回収できるかどうかや、その時期は、手続の種類・段階や手元の資料によって変わります。離婚協議書・公正証書・調停調書などの取決め文書や、裁判所から届いた書類を確認したうえで、対応を検討する必要があります。
相談前に準備しておきたい資料
ご相談をスムーズに進めるため、次の資料をできる範囲でご準備ください。すべてが揃っていなくても構いません。
- 養育費の取決めに関する文書(離婚協議書・公正証書・調停調書・審判書・判決書など)
- 養育費の支払履歴、未払額が分かる資料
- 給与明細・源泉徴収票・確定申告書などの収入資料、家計収支の分かるもの
- 債権者一覧、督促状・訴状・支払督促・差押命令など裁判所からの書類
- 預金通帳・保険・自動車・不動産・退職金見込みなどの財産資料
- 税金・社会保険料・家賃・住宅ローンの滞納状況が分かるもの
- 子どもの人数・年齢・監護状況、養育費の支払期日が分かる資料
債務整理前に注意したい行動
状況によっては、次のような行動が後の手続で問題となる可能性があります。いずれも事案により結論が変わりますので、迷った場合は自己判断せず、事前にご相談ください。
- 一部の債権者にだけ返済する(偏頗弁済として問題になる可能性があります)
- 財産の名義を移す、資産を不自然に処分する
- 新たに借入れをする、返済のための借入れを繰り返す
- 督促状や裁判所からの書類を放置する
- 養育費の支払いを、協議や手続を経ずに一方的に止める
弁護士に相談するタイミング
次のような場合は、早めのご相談をおすすめします。ご相談では、結果をお約束するのではなく、資料を確認したうえで、取り得る手続と注意点を整理します。
- 養育費の支払いと借金の返済が両立しないと感じたとき
- 養育費の未払いがあり、今後の対応に迷っているとき
- 給与や預金の差押えが心配なとき
- 自己破産・個人再生・任意整理のどれがよいか判断がつかないとき
- 養育費の減額が必要かどうかも含めて、家計全体を整理したいとき
よくある質問
- 自己破産をすると養育費は払わなくてよくなりますか。
- いいえ。養育費は非免責債権にあたり、自己破産で免責許可を受けても支払義務は残ります(破産法253条1項4号)。将来の養育費も支払い続ける必要があります。
- 個人再生をすると未払いの養育費は減額されますか。
- 手続開始前に発生した未払養育費は、原則として再生計画による減額の対象になりません(非減免債権)。将来発生する養育費も別に支払う必要があります。
- 養育費を払いながら任意整理はできますか。
- できる場合があります。任意整理は主に貸金業者などとの返済条件を見直す手続で、養育費は対象外です。将来の養育費を前提に、他の借金の返済額を検討します。可否や条件は事案により異なります。
- 支払いが苦しいので、養育費を自分の判断で減らしてもよいですか。
- 一方的に減額・停止することは避けるべきです。まず相手方との協議や、家庭裁判所の養育費減額調停などを検討することになります。減額の可否は個別事情により異なります。
- 令和8年4月施行の改正で、養育費の差押えは何が変わりましたか。
- 養育費に一般の先取特権が認められ、債務名義がなくても取決め文書に基づき差押えを申し立てられる場合が生じました。優先的に回収できる上限は子ども1人当たり月額8万円で、超える部分は従来どおり債務名義が必要です。
- 公正証書がなくても養育費の差押えを受けることはありますか。
- 改正後は、取決め文書がある場合などに、公正証書や調停調書がなくても差押えの申立てがされる可能性があります。適用の範囲は取決めの時期や内容により異なります。
- 養育費の滞納がある場合、相談では何を準備すればよいですか。
- 取決め文書、支払履歴、未払額の分かる資料、収入資料、家計収支、債権者一覧、裁判所からの書類などをご用意ください。すべて揃っていなくても差し支えありません。
- 相手が自己破産したら、受け取る側の養育費はどうなりますか。
- 養育費の請求権が当然に消えるわけではありません。ただし回収の可否や時期は手続や資料により異なるため、取決め文書や裁判所書類を確認したうえで検討する必要があります。
まとめ
- 養育費を払いながらでも、他の借金の債務整理は検討できます。
- 養育費は自己破産で免責されず、個人再生でも減額の対象外です。将来分は手続外で支払い続ける必要があります。
- 任意整理は養育費を減らす手続ではありません。将来の養育費を前提に他の借金の返済を見直します。
- 令和8年4月施行の改正で回収の実効性が高まったため、滞納の放置はリスクになり得ます。
- 支払いが苦しい場合も一方的に止めず、協議や家庭裁判所の手続、資料確認を通じて方針を整理しましょう。
養育費を続けながら、無理のない返済計画を立てられるかを一緒に確認しましょう。資料を拝見したうえで、自己破産・個人再生・任意整理それぞれの見通しと注意点を整理します。手続前に一度ご確認いただくことをおすすめします。
この記事の監修者
藤井貴之(弁護士・公認会計士)
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
取扱分野:借金問題(債務整理)、離婚・男女問題、相続、交通事故、企業法務 など
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