「自己破産をすると、今の仕事を続けられなくなるのではないか」「資格を取り消されてしまうのではないか」——。借入れの整理を考え始めたとき、こうした不安から手続をためらう方は少なくありません。
結論から申し上げると、自己破産をしたからといって、全ての職業で影響が生じるわけではありません。影響が生じるのはごく一部の職業・資格・登録・許認可等に限られます。
ただし、一部の資格・登録・許認可・役職については、破産手続開始の決定を受けてから「復権(ふっけん)」するまでの間、一時的に制限されることがあります。
どの仕事が制限の対象になるかは、破産法だけでなく、その資格や職業を定める個別の法律を確認する必要があります。
この記事では、制限の対象になりやすい職業の代表例、制限が始まる時期と終わる時期、復権の仕組み、勤務先への影響、そして破産を申し立てる前に手元で確認しておくべき資料を、順を追って整理します。
資格制限の有無は職種や登録制度によって異なり、結論が変わってしまいますので、気になる場合は、申立て前に一度確認しておくことをおすすめします。
仕事や資格への影響が不安なまま手続を進めると、後から想定外の支障が生じることがあります。
破産申立て前に、資格・登録・勤務先の資料を確認したうえで方針を整理することができますので、一度、弁護士にご相談ください。
Contents
自己破産と仕事・資格の関係|結論と全体像
まず全体像を整理しますが、自己破産による仕事・資格への影響は、次のように考えると見通しが立てやすくなります。
| 確認項目 | 基本的な考え方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 制限の有無 | 全ての職業ではなく、ごく一部の職業・資格・登録・許認可等が対象になる | 対象かどうかは職種ごとに個別法令の確認が必要 |
| 制限が始まる時期 | 原則として破産手続開始の決定を受けた後 | 弁護士に相談した時点や申立ての時点では、まだ「破産者」ではない |
| 制限が終わる時期 | 復権(免責許可決定の確定)により解消される。 | 免責許可決定が「出た日」と「確定した日」は異なる(確定日は、原則として、免責許可決定が官報に公告された日の翌日から起算して2週間後) |
| 復権した後 | 原則として、資格を取り直す必要等はない。 | 再登録・届出・更新が必要な場合がある。 |
| 制限を受けない手続 | 任意整理・個人再生は破産手続開始決定がないため資格制限を受けない。 | どの手続が適するかは弁護士に相談して検討べき。 |
このように、「自己破産=全員が仕事を失う」わけでも、「破産すれば一生その資格を使えない」わけでもありません。
多くの場合、手続の終了によって制限は解消されますが、資格の内容や登録制度によって取扱いが異なるため、自分の場合にどうなるかは個別に確認することが大切です。
破産で資格が制限される仕組み
制限を定めるのは破産法ではなく個別法令
意外に思われるかもしれませんが、「破産するとこの職業に就けない」という一覧が破産法にまとめて定められているわけではありません。
破産法は、復権の効果について「人の資格に関する法令の定めるところによる」としており(破産法第255条第2項)、実際にどの資格が制限されるかは、警備業法、宅地建物取引業法、建設業法、保険業法、弁護士法などの個別の法律に定められています。
そのため、自分の職種が制限の対象かどうかを調べるには、その資格や登録制等に関する法律の「欠格事由」。「登録拒否事由」を個別に確認する必要があります。
多くの法律では「破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者」といった文言で定められています。
「破産者」になるのはいつか
資格制限は、破産を検討し始めた時点や弁護士に相談した時点で始まるわけではありません。
裁判所が破産手続開始の決定をした時点で、その人は法律上「破産者」となり、ここではじめて個別法令の制限が問題になります。申立ての準備期間中はまだ破産者ではありません。
ただし、資格制限の対象になりそうな仕事に就いている場合は、開始決定を待つのではなく、申立て前の段階から、勤務先への説明、担当業務の調整、登録・更新時期の確認をしておくことが重要です。
準備期間中に更新期限が到来する場合などは、早めの確認が必要になります。
制限の始まりと終わりの時系列
大まかな流れは次のとおりです。
弁護士に相談・申立ての準備(まだ破産者ではない)
→ 破産手続開始の決定(ここから「破産者」となり、資格制限が問題になる)
→ 免責許可決定
→ 免責許可決定の確定(ここで復権し、資格制限が解消される)
つまり、資格制限が問題になるのは「開始決定から復権まで」の期間に限られます。
期間の目安は事案により異なり、財産がなく早期に手続が終わる場合と、破産管財人が選任される場合とで差があります。
なお、例外的に免責が許可されなかった場合などは、より長くかかることもあり得ますが、実務上、ありません。
資格制限が問題になりやすい職業・資格の代表例
以下は、確認できた法令に基づく代表例です。これは全ての資格・登録制度等を網羅するものではありません。
ご自身の職種が対象かどうかは、その資格や登録制等に関する法律を個別に確認する必要があります。
| 職業・資格・立場 | 問題になる場面 | 確認する法令 | 相談前に確認する資料 |
|---|---|---|---|
| 警備員 | 復権を得るまでの間、警備員となること・警備業務に従事することができない。 会社の事務職など警備業務以外への配置転換が可能な場合もあるが、会社の対応による |
警備業法第3条・第14条 | 雇用契約書、担当業務、配置転換の可否 |
| 宅地建物取引業者・宅地建物取引士 | 免許・登録を受けられない。 登録中に開始決定を受けると本人の届出により登録が消除され、再登録には免責許可決定確定証明書などの手続が必要になる |
宅地建物取引業法第5条・第18条 | 登録番号、免許番号、登録先からの通知 |
| 建設業の許可(本人・役員・一定の使用人) | 本人や役員等に対象者がいると許可を受けられない。 許可の更新時も確認の対象になる。役員が対象になると会社の許可に影響することがある |
建設業法第8条 | 許可番号、役員構成、更新期限 |
| 生命保険募集人・損害保険代理店(保険募集人) | 新たに登録を受ける場合は登録が拒否される。 既に登録している場合の取扱いは規律が異なり当然に失効するわけではないため、登録先・所属会社への確認が必要である。 |
保険業法第279条(既登録は第307条) | 登録の有無、所属会社の社内規程 |
| 士業(弁護士・司法書士・税理士・公認会計士など) | 復権を得るまでの間、資格・登録の欠格事由となる | 弁護士法第7条、司法書士法第5条、税理士法第4条、公認会計士法第4条 ほか | 登録番号、所属会・登録先への確認事項 |
| 成年後見人・後見監督人など | 破産者は後見人になれない。復権により欠格でなくなる | 民法第847条 ほか | 選任・就任の有無、家庭裁判所からの通知 |
会社の取締役などの役員は、少し扱いが異なります。取締役は会社と委任契約を結んでおり、破産手続開始の決定を受けると委任契約が終了するため(民法第653条)、いったん退任することになります。
もっとも、破産であること自体は取締役の欠格事由ではないため、復権前であっても、改めて株主総会で選任されれば取締役に就任することができます。「破産すると役員に一切なれない」ということではありません。
復権とは何か
復権とは、破産手続開始によって課された資格制限などが解除され、法律上「破産者」ではない状態に戻ることをいいます。
復権には、特別な手続を要しない「当然復権」と、申立てが必要な「申立てによる復権」があります。
当然復権(破産法第255条)
法律で定められた事由に該当すると、特別な手続をしなくても当然に復権します。主に次の場合です。
- 免責許可の決定が確定したとき
- 債権者全員の同意による破産手続廃止(同意廃止)の決定が確定したとき
- 個人再生に移行して再生計画認可の決定が確定したとき
- 破産手続開始の決定後、詐欺破産罪について有罪の確定判決を受けることなく10年を経過したとき
実際には、ほとんどの方が一つ目の「免責許可決定の確定」によって復権します。
例外的に免責が許可されなかった場合などに、二つ目以降が問題になります。
申立てによる復権(破産法第256条)
免責が得られなかった場合でも、その後に弁済などによって破産債権者に対する債務の全部について責任を免れたときは、本人の申立てにより、裁判所が復権の決定をします。
相続や臨時の収入で借入れを完済できた場合などに問題になる、例外的なケースです。
免責許可決定と「確定」の違い
注意したいのは、「免責許可決定が出た日」と「免責許可決定が確定した日」は異なるという点です。免責許可決定は官報に公告され、債権者からの不服申立てがないまま2週間を経過すると確定します。
資格制限が解消されるのは、原則として決定が「確定」した時点です。
また、復権しても、信用情報(いわゆる事故情報)はすぐには回復しません。
借入れやクレジットカードに関する情報は、復権とは別に一定期間、信用情報機関に記録が残ります。
資格制限の解消と、借入れ・カードの利用可否は別の問題として考える必要があります。
よく問題になるケースと確認ポイント
以下は、相談で迷われることの多い場面ごとの一般的な確認ポイントです。実際の結論は、勤務先・登録先の取扱いや個別事情により異なります。
警備員として勤務している
復権を得るまでの間、警備業務に従事できなくなる可能性があります。
会社の事務職などへの一時的な配置転換ができる場合もありますが、会社の対応によります。
任意整理・個人再生であれば資格制限を受けないため、どの手続が適するかを資料で確認することが重要です。
保険募集人として登録している
これから登録を受ける場合と、既に登録している場合とで取扱いが異なります。
新規登録は制限される一方、既登録者は当然に登録が失効するわけではありません。
所属する保険会社・登録先の取扱いを確認する必要があります。
不動産・宅地建物取引士の登録がある
復権を得るまでの間、登録を受けられず、登録中に開始決定を受けた場合は届出と登録消除の手続が生じます。
復権後の再登録には所定の手続が必要です。免許・登録番号、登録先からの通知を確認しておきましょう。
建設業許可・会社役員に関わる
本人だけでなく役員や一定の使用人が対象になると、会社の許可に影響することがあります。
更新時期が近い場合は特に注意が必要です。役員の場合は、退任と再選任の扱いもあわせて確認します。
士業の資格・登録がある
復権を得るまでの間、資格・登録の欠格事由となります。
復権後に再び業務を行えるかは、所属会・登録先への確認が必要です。
成年後見人になっている・候補になっている
破産者は後見人になれないため、選任されている場合・候補になっている場合は、家庭裁判所からの通知や選任状況を確認する必要があります。
一般の会社員で勤務先に知られるか不安/家族の破産の影響
資格制限のない一般の会社員・アルバイト・パートは、破産だけで当然に就業できなくなるわけではありません。
ただし、勤務先の就業規則、担当業務、資格手当、会社への届出義務などにより取扱いが変わることがあります。
また、家族が破産しても、本人以外の資格が当然に制限されるわけではありません(制限は本人の破産を前提とします)。
一方で、官報公告や、警備員などで求められる身分証明書の提出、登録・更新の手続を通じて知られる可能性がある場面もあります。「絶対に知られない」「必ず解雇される」とは断定できません。
破産申立て前に確認すべきチェックリスト
資格制限が問題になりそうな場合は、申立て前に次の資料・事項を整理しておくと、見通しを立てやすくなります。
- 職種名・資格名・登録番号・許認可の種類(免許証・登録証・許可証)
- 勤務先の就業規則、雇用契約書、資格手当・職務分掌の有無
- 登録先・許認可先からの通知、更新通知、更新期限・登録期限
- 債権者一覧、借入先、請求書・督促状、給与明細、家計の資料
- 裁判所からの書類がある場合はその写し
- 勤務先・登録機関から提出を求められている書類
- 配置転換・休職の可否、退職勧奨の有無
- 復権後に再登録・届出・更新が必要かどうかの確認事項
- 任意整理・個人再生・自己破産のうち、どの手続が適するかの検討材料
資格・登録・許認可の資料を確認したうえで、仕事への影響を抑えながら借入れを整理できる方法がないかを検討することができます。
任意整理・個人再生・自己破産のいずれが適するかは、資料を確認したうえで判断する必要があります。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、早めに相談することで判断材料を整理しやすくなります。
相談は結果を保証するものではありませんが、資料を確認することで、見通しや対応方針を検討できます。
- 破産申立てを検討しているが、仕事や資格への影響が分からないとき
- 勤務先に説明する前に、何を伝えるべきか整理したいとき
- 登録・許認可の更新期限が近いとき
- 破産手続開始の決定後、業務を続けられるか不安なとき
- 免責許可決定後に、復職・再登録について確認したいとき
債務整理の方法は自己破産だけではありません。
資格制限を受けない任意整理・個人再生という選択肢もあります。どの方法が適するかは、借入れの状況と仕事・資格への影響をあわせて確認したうえで検討することになります。
よくある質問(FAQ)
自己破産をするとすべての仕事に就けなくなりますか?
いいえ。すべての職業が制限されるわけではありません。
制限の対象になるのは一部の資格・登録・許認可・役職で、対象かどうかは職種ごとに個別の法律を確認する必要があります。
資格制限はいつから始まりますか?
原則として、裁判所が破産手続開始の決定をした後です。
弁護士に相談した時点や申立ての準備中は、まだ「破産者」ではありません。
ただし、更新時期などの関係で、申立て前の確認が必要になる場合があります。
復権とは何ですか。いつ復権しますか?
復権とは、破産による資格制限などが解除され、法律上「破産者」でない状態に戻ることです。
多くの場合、免責許可決定が確定した時点で当然に復権します。期間は事案により異なります。
警備員は自己破産をすると働けなくなりますか?
復権を得るまでの間、警備業務に従事できなくなる可能性があります。
会社の事務職などへの一時的な配置転換ができる場合もありますが、会社の対応によります。
資格制限を受けない手続の検討も含め、資料を確認することをおすすめします。
保険募集人や宅地建物取引士は自己破産で影響がありますか?
影響が生じる場合があります。
保険募集人は新規登録が制限される一方、既登録者の取扱いは規律が異なります。
宅地建物取引士は登録に影響し、登録中に開始決定を受けると届出が必要です。いずれも登録先・所属先への確認が必要です。
一般の会社員でも自己破産で解雇されますか。勤務先に知られますか?
資格制限のない一般の会社員が、破産だけで当然に解雇されるわけではありません。
ただし、就業規則や担当業務により取扱いが変わることがあります。
官報公告や身分証明書の提出などを通じて知られる可能性がある場面もあり、「絶対に知られない」「必ず解雇される」とは断定できません。
免責許可決定が出たらすぐに復権しますか?
「決定が出た日」と「確定した日」は異なります。
免責許可決定は官報公告後、不服申立てがないまま一定期間を経て確定し、原則として確定した時点で復権します。
破産申立て前に弁護士へ相談した方がよいのはどんなときですか?
資格・登録・許認可に関わる仕事をしている場合や、更新時期が近い場合、勤務先への説明を控えている場合です。
申立て前に資料を確認することで、仕事への影響を抑えられる手続がないかを含め、方針を整理しやすくなります。
まとめ
- 自己破産をしても、すべての職業に就けなくなるわけではありません。
- 制限の対象は破産法ではなく個別の法律で定められており、職種ごとの確認が必要です。
- 制限が問題になるのは「破産手続開始の決定」から「復権」までの間です。
- 多くの場合、免責許可決定の確定により当然に復権します(「出た日」と「確定した日」は別です)。
- 復権後も再登録・届出が必要な場合があり、信用情報は別途残ります。
- 任意整理・個人再生は資格制限を受けないため、資料を確認したうえで手続を選ぶことが大切です。
- 資格制限が関係しそうな方は、申立て前に資料を確認し、方針を整理することをおすすめします。
仕事や資格への影響を資料で確認したうえで、任意整理・個人再生・自己破産のいずれが適するかを含め、債務整理の方針を相談することができます。
資格制限の有無は職種や登録制度により異なり、個別事情により結論は変わります。
参考資料(公的機関・公式資料)
- 裁判所「破産」
- e-Gov法令検索「破産法」
- 法テラス「自己破産に関するよくある相談」
- e-Gov法令検索「警備業法」「宅地建物取引業法」「建設業法」「保険業法」「弁護士法」「司法書士法」「税理士法」「公認会計士法」「民法」

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