「催告書や解除通知を送ったのに、賃借人(入居者・テナント)が退去してくれない」「建物明渡請求訴訟や強制執行に、どの程度の準備・期間・費用がかかるのか分からない」「連絡が取れないまま、鍵を交換したり室内の荷物を処分してよいか迷っている」。家賃・賃料の滞納が続き、任意の話合いでは解決が難しくなった場面で、賃貸人(貸主)・大家・物件オーナー・賃貸管理のご担当者から、こうしたご相談をいただきます。
この記事では、家賃・賃料の滞納を理由とする建物明渡請求について、任意交渉から、訴え提起前の和解、建物明渡請求訴訟、必要に応じた占有移転禁止の仮処分、判決・和解後の強制執行、残置物への対応、必要資料、期間・費用の考え方までを、貸主側の視点で整理します。滞納を把握した直後の初動、催告、契約解除の進め方は、家賃滞納を把握した直後の対応と催告・解除の流れを確認するで詳しく説明していますので、あわせてご覧ください。
先に結論の方向性をお伝えします。家賃の滞納があっても、賃貸人が自分の判断で鍵を交換したり、室内の荷物を運び出したりすることはできません。建物の明渡しを実現するには、原則として、契約解除のうえで判決や和解調書などの債務名義(強制執行の根拠となる公的な文書)を取得し、建物明渡しの強制執行(一般に「強制退去」と呼ばれる手続の正式な形)による必要があります。まず出発点になるのは、契約書・入金記録・通知の記録・現在の占有者を確認することです。個別の事情により手続の選択や見通しは変わりますので、迷う場面では早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
この記事の法令に関する記載は、調査時点(2026年7月)の民法・借地借家法・民事訴訟法・民事執行法・消費者契約法にもとづく一般的な整理です。個別事情により結論は異なります。手続の詳細や費用は、申立先の裁判所・執行官室で確認が必要です。
「催告・解除の次に何をすべきか」「訴訟や強制執行にどの資料が必要か」を確認したい方へ。賃貸借契約書・入金履歴・通知の記録・現在の占有状況を整理しておくと、取り得る手続と順序を検討しやすくなります。鍵交換や残置物の処分に進む前に、一度ご相談ください。
まず結論|家賃・賃料滞納から建物明渡しまでの全体像
家賃・賃料の滞納への対応は、大きく分けて「契約を終わらせるか(解除)」「部屋を明け渡してもらうか(明渡し)」「滞納した家賃を回収するか(金銭回収)」という三つの目的が重なり合っています。明渡しと金銭回収は別の手続であり、どちらを優先するかで進め方が変わります。現在の段階ごとに、確認すべきことと避けるべき対応を整理すると、次のとおりです。
| 現在の段階 | 確認すること | 次の対応の方向性 | 避けるべき対応 |
|---|---|---|---|
| 催告・解除の前後 | 契約書、入金履歴、滞納額・滞納期間、通知の到達状況 | 催告・解除の要否と内容を確認する(初動は関連記事参照) | 滞納を理由とした無断の鍵交換・立入り |
| 任意退去を協議できそう | 明渡期限、未払賃料、敷金・保証金、残置物、原状回復 | 合意書の内容と、合意を強制執行につなげる方法を検討 | 口頭の約束だけで済ませ、記録を残さないこと |
| 訴訟を検討する段階 | 解除の有効性、現在の占有者、管轄・訴額の確認 | 建物明渡請求訴訟、必要に応じ占有移転禁止の仮処分 | 占有者を確認しないまま手続を進めること |
| 判決・和解後も退去しない | 債務名義の種類、執行文・送達証明書などの要否 | 建物明渡しの強制執行の申立てを検討 | 賃貸人による独断の搬出・残置物の廃棄 |
この記事は、催告・解除より後の段階、すなわち訴え提起前の和解、建物明渡請求訴訟、占有移転禁止の仮処分、強制執行、残置物への対応を中心に説明します。滞納の把握直後の初動、滞納額の確認、催告、契約解除、保証会社への連絡といった上流の対応は、家賃滞納を把握した直後の対応と催告・解除の流れで解説しています。
建物明渡請求とは|「強制退去」との関係を整理する
建物明渡請求とは、賃貸人が賃借人に対し、建物の占有を解いて明け渡すよう求めることをいいます。インターネット上でよく使われる「強制退去」「立ち退き」という言葉は、法律上の正式な手続としては、判決などにもとづく建物明渡しの強制執行を指します。この記事では、一般的な検索語として「強制退去」に触れつつ、手続の説明では正式な用語を用います。
ここで押さえておきたい前提が二つあります。第一に、家賃の滞納があっても、それだけで賃貸借契約が当然に終了するわけではありません。契約を解除するには、原則として相当の期間を定めた催告と、賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたと評価できる事情が必要です(催告解除は民法第541条、信頼関係破壊の法理は判例上の考え方)。「何か月滞納すれば必ず解除できる」という固定的な基準があるわけではありません。この点の詳細は家賃滞納への対応に関する記事で説明しています。
第二に、金銭の回収(未払家賃)と部屋の明渡しは、別の手続です。後述するとおり、支払督促や執行認諾文言付きの公正証書では、金銭の支払いを実現できても、建物の明渡しそのものを強制執行することはできません。明渡しを実現するには、明渡しについての債務名義が必要になります。
建物明渡しに進む前に確認する資料と占有者
訴訟や強制執行を検討する段階では、次の資料と事実を確認しておくと、手続の選択と見通しの検討がスムーズになります。
契約・入金・通知に関する資料
賃貸借契約書(更新契約書・変更合意書を含む)、賃料額と支払期日、滞納額と入金履歴(通帳・賃料台帳)、催告書・解除通知書、その発送・配達・返戻の記録、賃借人とのメール・メッセージ・録音・交渉記録、保証契約や家賃保証会社との契約、敷金・保証金に関する資料などです。これらは、解除の有効性や請求額を裏づける資料として、訴訟でも重要になります。具体的な一覧は、記事末尾の手続前チェックリストにまとめています。
「誰が占有しているか」を確認する
建物明渡しの手続では、実際に建物を使っている人(占有者)が誰かを確認することが特に重要です。占有とは、その建物を事実上支配している状態をいいます。契約名義人である賃借人本人だけでなく、同居している家族、従業員、賃貸人に無断で入居した転借人などが占有していることがあります。占有者を正確に特定しないまま訴訟を進めると、判決を得ても、その人に対しては強制執行ができないという事態が生じ得ます。賃借人が法人の場合は、登記事項を確認し、実際に使用している者を把握しておく必要があります。
連絡が取れない場合の確認
賃借人と連絡が取れない場合でも、それだけで契約が当然に終了したり、室内を自由に片づけてよくなったりするわけではありません。緊急連絡先・連帯保証人・家賃保証会社への確認や、現在の占有状況の確認を行います。所在が分からない場合には、裁判上の送達方法(付郵便送達・公示送達など)を検討する必要が生じることもあります。
任意交渉と「訴え提起前の和解」|合意を強制執行につなげる方法
賃借人が任意に退去してくれれば、訴訟費用・執行費用をかけずに解決でき、新たな賃貸に移ることができます。もっとも、話合いだけで進めると、交渉が長引き、その間に未払賃料が増えていくおそれもあります。任意交渉を続ける場合でも、期限を区切り、必要に応じて法的手続の準備を並行して検討することが現実的です。
任意退去の合意書で確認する事項
任意退去について合意する場合は、後日の紛争を防ぐため、合意書で条件を明確にします。確認しておきたい主な項目は、明渡しの期限、鍵の返却、室内に残された荷物(残置物)の取扱い、未払賃料の額と支払方法、敷金・保証金の精算、原状回復の範囲、期限に違反した場合の対応などです。
裁判外の合意だけでは強制執行に進めないことがある
注意したいのは、裁判外で明渡しを合意しても、賃借人が実際に退去しなければ、その合意書だけでは強制執行を申し立てられないという点です。強制執行をするには、法律で定められた債務名義が必要だからです。単なる私文書の合意書は、債務名義には当たりません。
訴え提起前の和解(即決和解)を利用する場面
この弱点を補う方法の一つが、訴え提起前の和解(「即決和解」とも呼ばれます)です。これは、訴訟を提起する前に、当事者が簡易裁判所に和解を申し立てる手続で、民事訴訟法第275条に定められています。当事者間に合意があり、裁判所がその合意を相当と認めた場合、和解が成立し、その内容を記載した和解調書は確定判決と同一の効力を持ちます(民事訴訟法第267条)。和解調書は債務名義になるため、賃借人が約束どおり退去しないときは、これにもとづいて強制執行を申し立てることができます。申立てから和解期日までには一定の期間を要し、運用は簡易裁判所によって異なりますので、申立先に確認することをおすすめします。
公正証書・支払督促でできること、できないこと
「公正証書を作れば強制執行できる」「支払督促で退去も求められる」と考える方がいますが、建物明渡しとの関係では限界があります。執行認諾文言付きの公正証書(執行証書)で強制執行できるのは、金銭の一定額の支払いなどに限られ(民事執行法第22条第5号)、建物の明渡しそのものを公正証書で強制執行することはできません。また、支払督促は金銭その他の代替物などの給付を求める手続であり(民事訴訟法第382条)、建物の明渡しには使えません。回収(お金)と明渡し(部屋)は別の手続だと理解しておくことが大切です。支払督促と明渡請求の違いは、家賃滞納への対応に関する記事の比較表もご参照ください。
建物明渡請求訴訟の流れ
任意退去も合意も難しい場合は、建物明渡請求訴訟を検討します。一般的な流れは次のとおりですが、事案により異なります。
訴訟の前に確認する要件
訴訟では、賃貸借契約の成立、賃料の滞納、催告と解除の意思表示、信頼関係が破壊されたと評価できる事情などを主張・立証していくことになります。前述のとおり、現在の占有者が誰かの確認も欠かせません。
管轄・訴額は確認が必要
どの裁判所に訴えを提起するか(管轄)や、訴訟の規模を示す訴額の算定は、建物の所在地や固定資産評価額、併せて請求する金額などによって変わります。未払賃料などの金銭請求を併合するかどうかによって、申立ての手数料(印紙額)も変わります。これらは事案ごとの確認が必要で、一律には決まりません。
訴状・証拠・送達から判決まで
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| 訴状の提出 | 管轄裁判所へ訴状と証拠を提出する。契約書・入金履歴・通知の記録などを整理する |
| 送達・第一回期日 | 訴状が相手方へ送達され、口頭弁論期日が指定される。相手方に届かない場合は送達方法の検討が必要 |
| 審理 | 双方の主張・証拠を踏まえて審理が進む。争いの有無により期間は変わる |
| 和解・判決 | 途中で和解が成立することもある。和解に至らなければ判決に進む |
| 確定・仮執行 | 判決が確定するか、仮執行の宣言がある場合に、強制執行に進む前提が整う |
占有移転禁止の仮処分|占有者が変わるおそれがある場合
訴訟の途中で占有者が第三者に入れ替わると、せっかく判決を得ても、その第三者に対しては明渡しの強制執行ができないことがあります。こうしたおそれがある場合に検討するのが、占有移転禁止の仮処分です。これは、占有を現在の者に固定し、その後に占有を取得した者に対しても判決の効力を及ぼしやすくするための保全手続です。
もっとも、この仮処分はすべての事案で必要になるものではありません。占有者が変わる具体的なおそれがあるかどうかによって要否を検討します。申立てには担保(保証金)の提供を求められることがあり、その額や費用は事案・裁判所により異なります。必要性の判断を含め、個別に検討することをおすすめします。
併せて検討する金銭請求|未払賃料・遅延損害金・使用損害金
建物明渡請求訴訟では、明渡しに加えて、金銭の請求を併せて行うことが一般的です。主に問題になるのは、次の項目です。
- 未払賃料:契約が終了するまでの、支払われていない賃料。
- 遅延損害金:支払いが遅れたことに対する損害金。利率や起算日は契約内容によります。
- 契約終了後の使用損害金:契約が終了してから明渡しが完了するまでの間、賃借人が建物を使い続けていることに対する、賃料相当額の損害金。
契約書に、契約終了後の使用損害金を賃料の倍額とする条項(いわゆる倍額特約)が置かれていることがあります。こうした条項の有効性は、契約の当事者(消費者か事業者か)、住宅用か事業用か、金額の相当性などによって判断が分かれ得ます。過去には、賃料相当額を上回る使用損害金の定めについて、消費者契約法第10条に違反しないと判断した裁判例もありますが、特定の裁判例だけをもって、あらゆる場合に有効と一般化することはできません。請求できる項目・金額・利率・起算日・法的構成は、契約書と事実関係を確認したうえで検討する必要があります。
なお、連帯保証人や家賃保証会社に対する請求は、明渡しとは別に検討します。個人が保証人となる賃貸借の保証(個人根保証契約)は、極度額(上限額)を定めなければ効力を生じないとされており(民法第465条の2)、契約の締結時期によって適用関係が異なります。保証人・保証会社への対応は、家賃滞納への対応に関する記事もご参照ください。立退料は、賃料不払を理由とする解除の場面ではなく、主に賃貸人都合で解約を申し入れる場面で問題になります。混同しやすい論点ですので、賃貸人からの解約申入れと正当事由・立退料に関する記事で整理しています。
訴訟上の和解で確認する条項
訴訟の途中で、裁判所から和解を勧められることがあります。和解が成立すると、その内容を記載した和解調書が債務名義になり、条項に違反した場合には強制執行が可能になります。賃貸人としては、和解の際に次の点を確認しておくことが重要です。
- 明渡しの期限
- 未払賃料の支払方法(分割払いとするか、その一部を免除するか)
- 敷金・保証金の精算
- 原状回復の範囲
- 残置物の取扱い
- 期限に違反した場合に、直ちに強制執行できる旨の定め
判決・和解後の対応|任意の明渡しと強制執行
判決や和解調書を得ても、それだけで自動的に部屋が明け渡されるわけではありません。まずは賃借人に任意の明渡しを求め、応じない場合に、建物明渡しの強制執行を検討する、という順序になります。
建物明渡しの強制執行の流れ
ここからは、裁判所の公式案内(調査時点2026年7月)にもとづき、建物明渡しの強制執行の流れを説明します。運用の細部は裁判所・執行官室によって異なりますので、申立先での確認が前提になります。
申立先と必要な書類
建物明渡しの強制執行は、不動産の所在地を管轄する地方裁判所に所属する執行官に対して、書面で申し立てます。申立てには、原則として次のものが必要です。まず、強制執行の根拠となる債務名義(判決、和解調書、民事調停調書など)です。判決・和解調書・民事調停調書を債務名義とする場合には、執行文(その債務名義で強制執行してよいことを公証する文言)の付与を受ける必要があります。
ここで、近時の制度改正に注意が必要です。令和8年5月21日に民事訴訟手続が全面的にデジタル化され、判決書などが裁判所において電子的に作成されるようになりました。裁判所の公式案内によれば、必要書類は債務名義の作り方によって次のように異なります。
| 債務名義の種類 | 主に必要となるもの |
|---|---|
| 裁判所が電子的に作成した債務名義 | 執行文の付与(債務名義の種類による)と、事件番号などの事件特定情報の提供。この方法では、債務名義の正本や送達証明書の準備は不要とされています |
| 上記以外(書面の債務名義) | 債務名義正本の発行、執行文の付与、送達証明書の交付を受ける |
| 共通で必要になり得るもの | 申立書(当事者目録・物件目録を含む)、法人が当事者の場合は登記事項証明書、代理人による場合は委任状、執行場所の略図など |
なお、民事執行の手続自体は、令和8年5月時点ではまだ全面的にはデジタル化されておらず(裁判所の案内では、遅くとも令和10年6月までに全面デジタル化の予定とされています)、当面は書面での申立てが必要です。どの書類が必要かは事件ごとに異なりますので、申立先の執行官室に確認することが確実です。
申立てから断行までの流れ
申立て後は、おおむね次の順序で進みます。ここで、似ているが意味の異なる三つの用語を区別しておくことが大切です。
| 段階・用語 | 意味・内容 |
|---|---|
| 強制執行の申立て | 管轄地方裁判所の執行官に、書面で申し立てる |
| 執行開始日時の指定 | 債権者(またはその代理人)の現場出頭が必要なため、執行官が協議して日時を定める。原則として申立てから2週間以内の日とされています |
| 明渡しの催告 | 執行官が現地で占有を確認し、引渡しの期限を定めて明渡しを催告する手続(民事執行法第168条の2) |
| 引渡しの期限 | 賃借人が任意に明け渡すべき期限。原則として、明渡しの催告があった日から1か月を経過する日とされています。強制執行が実施される日とは異なります |
| 断行実施予定日 | 引渡しの期限までの間に定められる、実際に明渡しを実施する予定日。この前日までに任意の明渡しを促されます |
| 強制執行の実施(断行) | 賃借人の占有を解いて、賃貸人に占有を取得させる。残された動産の搬出などが行われる |
「明渡しの催告」「引渡しの期限」「断行実施予定日」は、いずれも異なる時点を指します。特に、引渡しの期限と実際に強制執行を行う日(断行日)は一致しない点に注意が必要です。執行官による明渡しの催告は、賃借人に対する心理的な効果も大きく、断行に至る前に任意に退去する例も少なくありません。
残置物(目的外動産)への対応
断行の際、室内に残された家財や商品などの動産を、目的外動産(強制執行の目的物ではない動産)と呼びます。ここで最も注意したいのは、賃貸人が独断で残置物を廃棄することはできないという点です。残置物の所有権は、原則として賃借人などに残っています。
裁判所の案内によれば、強制執行における目的外動産は、まず賃借人などに引き渡すことになり、引き渡すことができないときは売却することができるとされています。無価値と判断された物については、廃棄されることもあります。いずれも、賃貸人の一存ではなく、強制執行の手続の中で執行官の関与のもとに処理される点が重要です。
なお、任意退去の合意の中で残置物の処分について取り決める場合には、対象となる物の特定、所有権の所在、第三者の所有物が含まれていないか、個人情報を含む物品の取扱いなどに注意が必要です。合意があっても、後日の紛争を避けるため、内容を明確にしておくことが望まれます。
期間と費用の考え方
建物明渡しにかかる総期間や総費用を、一律の月数・金額で示すことはできません。事案によって大きく変わるため、次のように構成要素ごとに分けて考えることが実務的です。
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 催告・解除の準備 | 内容証明郵便の作成・発送、到達状況の確認など |
| 任意交渉・訴え提起前の和解 | 合意の成立までの期間。簡易裁判所の運用により異なる |
| 訴訟 | 争いの有無、送達の状況、和解の可否により期間が変わる |
| 占有移転禁止の仮処分 | 必要な場合の担保(保証金)など。事案・裁判所により異なる |
| 強制執行 | 裁判所に納める予納金(各裁判所により異なり、執行官室で確認)、収入印紙は不要(郵送申立ての切手を除く) |
| 執行補助業者などの費用 | 開錠、搬出、運搬、保管などの費用。物件・荷物量・地域・業者により異なる |
| 弁護士費用 | 依頼内容による。最新の費用は費用ページで確認 |
強制執行の予納金は各裁判所によって異なり、事件終了後に残額があれば返還される一方、手続中に追加の予納を求められることもあります。金額は申立先の執行官室で確認するのが確実です。弁護士費用については、弁護士費用を確認するで最新の内容をご確認ください。
訴訟や強制執行に進む前に、現在の段階を整理しておくことができます。契約書・催告書・入金履歴・通知の記録・現在の占有者を確認したうえで、取り得る手続と順序、法律上の見通しを検討します。相談は結果を保証するものではありませんが、必要な資料と手続の流れを整理する場としてご利用ください。
よく問題になるケース
実際のご相談では、次のような場面で判断に迷うことが多く見られます。いずれも個別事情により結論が変わります。
- 一部入金・分割払いの申出がある:支払意思を示す事情として評価される一方、滞納が続けば信頼関係の破壊が認められやすくなります。合意の内容と記録の残し方が重要です。
- 過去にも滞納を繰り返している:これまでの支払状況は、解除の可否の判断に影響します。
- 賃借人と連絡が取れない・行方不明:独断の片づけは避け、占有・保証関係の確認や、裁判上の送達方法を検討します。
- 内容証明郵便が返戻された:到達の有無が争点になり得ます。送付方法や、その後の手続を検討します。
- 賃借人以外の者が居住・使用している:占有者の特定と、占有移転禁止の仮処分の要否が問題になります。
- 店舗・事務所として使用されている:事業用物件では、住宅用とは検討事項が異なる場面があります。
- 保証人・家賃保証会社がいる:明渡しと金銭回収は別に検討します。詳細は関連記事へ。
- 室内に大量の荷物がある:残置物の処理は強制執行の手続の中で行うのが原則です。
- 賃借人が法人で休眠・廃業している:登記や連絡先、保証関係を確認したうえで方針を検討します。
- 賃借人が死亡・破産した:相続人や破産手続との関係で、別途の検討が必要になります。
- 契約書に無催告解除条項・倍額損害金条項・自力救済条項がある:条項があっても、当然にそのとおりの効力が認められるとは限りません。
用途違反(契約と異なる使い方)を理由とする解除を検討する場合は、賃貸の用途違反と信頼関係破壊の法理に関する記事もご参照ください。
手続前チェックリスト
訴訟・強制執行などに進む前に、次の資料がそろっているかを確認しておくと、手続の検討や相談がスムーズになります。すべてがそろっていなくても、あるものから整理していくことが大切です。
- 賃貸借契約書、契約更新・変更に関する書類
- 物件の登記事項証明書
- 入金履歴、通帳、賃料台帳、滞納額の計算表
- 催告書、解除通知書
- 郵便の追跡記録、配達証明、返戻された封筒
- メール、メッセージ、録音、訪問・交渉の記録
- 連帯保証人・家賃保証会社に関する資料
- 敷金・保証金に関する資料
- 現在の占有者が分かる資料(同居人・従業員・転借人の有無)
- 室内・残置物の状況が分かる写真など
- 建物の図面・写真
- 相手方が法人の場合の登記事項証明書
- これまでの合意書・念書・支払計画書
- すでに裁判所から届いている書類
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、手続に進む前に資料を確認しておくことで、方針を整理しやすくなります。相談は結果を保証するものではありませんが、契約内容・占有状況・通知の経過を踏まえて、取り得る手続と見通しを検討する場としてご利用いただけます。
- 催告書・解除通知書を送る前
- 通知が返戻された
- 無催告解除を検討している
- 一部入金・分割払いの申出があった
- 任意退去の合意書を作成する
- 訴訟を提起する、または訴え提起前の和解を検討する
- 占有者が変わるおそれがある
- 連帯保証人・家賃保証会社への請求を検討している
- 判決・和解後も退去しない
- 強制執行や残置物への対応を検討している
よくあるご質問(FAQ)
家賃を何か月滞納すれば契約を解除できますか。
「何か月で必ず解除できる」という一律のルールはありません。解除は、催告をしたうえで、滞納額・滞納期間・過去の支払状況・催告への対応などから、信頼関係が破壊されたといえるかを総合的に判断します。滞納期間は判断要素の一つにすぎません。個別事情により結論は異なります。
内容証明郵便を受け取ってもらえない場合、催告や解除はどうなりますか。
通知は相手に届いて効力を生じるのが原則です(民法第97条)。不在・受取拒否・返戻などがあると、到達の有無が争点になり得ます。到達をどの時点で認めるかは事案により異なり、一般化はできません。送付方法や、その後の法的手続を含めて検討する必要があります。
家賃を滞納している賃借人の鍵を交換してもよいですか。
承諾のない鍵交換は、法的手続によらずに実力で権利を実現する自力救済にあたり、原則として違法とされ、損害賠償責任を問われるおそれがあります。契約書に自力救済を認める趣旨の特約があっても、当然に有効とは限りません。明渡しは法的手続によって進める必要があります。
支払督促や公正証書があれば、建物の明渡しまで実現できますか。
いずれも建物明渡しの強制執行には使えません。支払督促は金銭などの給付を求める手続で、明渡しには使えません(民事訴訟法第382条)。執行認諾文言付きの公正証書で強制執行できるのは金銭の支払いなどに限られ(民事執行法第22条第5号)、建物の明渡しには、判決や和解調書などの債務名義が別途必要です。
建物明渡請求訴訟には、どのような資料が必要ですか。
賃貸借契約書、入金履歴、滞納額の計算資料、催告書・解除通知書とその送付・到達の記録、賃借人とのやり取りの記録、現在の占有者が分かる資料などが基本になります。相手方が法人の場合は登記事項証明書も確認します。事案により必要な資料は変わりますので、手元の資料を確認したうえで検討します。
強制執行には、どの程度の期間と費用がかかりますか。
物件の状況、占有の状況、荷物の量、地域などにより大きく変わるため、一律には示せません。裁判所に納める予納金は各裁判所により異なり、執行官室で確認します。このほか、開錠・搬出・運搬・保管などの費用がかかります。弁護士費用は費用ページをご確認ください。
賃借人以外の人が住んでいる場合は、どうなりますか。
明渡しを実現するには、実際に占有している人を特定することが重要です。占有者が変わるおそれがある場合には、占有移転禁止の仮処分を検討することがあります。占有者を確認しないまま手続を進めると、判決を得ても強制執行ができないことがあります。
判決が出れば、すぐに賃借人の荷物を撤去できますか。
判決が出ても、賃貸人が自分で荷物を撤去することはできません。残された荷物(目的外動産)の搬出は、建物明渡しの強制執行の手続の中で行うのが原則です。まず任意の明渡しを求め、応じない場合に強制執行を申し立てる、という順序になります。
まとめ
- 家賃の滞納があっても、賃貸人が独断で鍵交換・立入り・荷物処分をすることはできません(自力救済の禁止)。
- 明渡しを実現するには、契約解除のうえ、判決や和解調書などの債務名義を取得し、建物明渡しの強制執行による必要があります。
- 金銭の回収(未払家賃)と建物の明渡しは別の手続です。公正証書や支払督促では、建物明渡しの強制執行はできません。
- 裁判外の合意だけでは強制執行に進めない場合があり、訴え提起前の和解などの活用を検討します。
- 占有者の特定は重要で、必要に応じて占有移転禁止の仮処分を検討します。
- 強制執行では、明渡しの催告・引渡しの期限・断行実施予定日を区別し、残置物は手続の中で処理します。
- 期間・費用は事案により変わります。まず契約書・入金記録・通知・占有状況を確認することが出発点です。
家賃・賃料の滞納による建物明渡しをご検討の賃貸人・大家・物件オーナー・管理担当者の方へ。弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所では、初回無料の法律相談(予約制・一部対象外の分野があります)により、契約内容と占有状況の確認、催告・解除・合意書・訴訟・強制執行のどの手続を検討すべきかの整理、自力救済に進む前の法的リスクの確認などを行います。催告・解除の次の一手を検討する段階から、ご相談いただけます。
お電話(0799-53-6782・受付9時〜20時)または相談予約フォームからご予約ください。
執筆者・監修者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士
兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
2012年(平成24年)司法試験合格、2013年弁護士登録。2020年(令和2年)公認会計士試験合格。兵庫県・山口県・東京都での実務経験を経て、2023年に淡路島(南あわじ市)へ事務所を開設しました。不動産の賃貸借トラブル・建物明渡し・債権回収のほか、相続・企業法務などにも対応しています。賃貸借に関する紛争では、契約書や資料を確認したうえで、法的な構成と手続の見通しを整理します。

24時間365日受付