法務DD⑶ ~ 株式・株主について
企業法務M&A法務DD⑶ ~ 株式・株主について
1 株式の帰属(株主の真正性)の重要性
対象会社が非公開会社であり、株式譲渡によりM&A取引を実施しようとする場合、現在の株主(であるとされている者)が、適法かつ有効に対象会社の株式を所有しており、株主から適法かつ有効に株式を譲り受けることができるかどうか、が極めて重要な論点となります。
2 株券の交付のない株式譲渡
株券発行会社においては、株券の交付のない株式譲渡は無効になります(会社法第128条第1項)。
対象会社において過去に株券の交付のない株式譲渡があった場合、その株式譲渡が無効になるだけでなく、譲渡の後に行われた全ての株式譲渡が無効となるため、現在の株主(であるとされている者)が法的には真の株主でないことになるおそれがあります。
株券発行会社であるにもかかわらず、これまで一度も株券が発行されないまま株式譲渡が行われてきていることもあります。
これまで株式の帰属が問題になってこなかった場合であっても、M&A取引を契機として、真の株主である可能性がある者から突如として権利主張が行われることもあり得ることから、実際にリスクが顕在化してくる可能性もあります。
もし、株券の交付のない株式譲渡がなされている場合、過去の株式譲渡に係る株券の交付を改めて行うことが考えらます。
もっとも、こうした方法は過去の株式譲渡に関係した全ての譲渡当事者の協力が必要になり、かえってこれらの者の権利主張のきっかけを与えてしまうことにもなりかねないため、慎重な検討を要します。
このほか、株主権の時効取得、最終契約書における特別補償条項などによる対処法もあります。
上記の対処法が採れない場合、対象会社の事業を会社分割して新設会社に承継させるなど会社法の組織再編などを用いる方法が考えられます。
3 少数株主の存在(株主構成)
株主構成も法務DDにおける確認項目となります。
株式譲渡によりM&A取引を実施しようとする場合、買主は通常、対象会社の発行済株式の100%の取得を希望するため、少数株主から株式を買い集める必要が生じることがあります。
中小企業のM&Aにおいては、少数株主からの株式の買い集めに関しては、株主の属性をよく知る経営株主に買取交渉を委ね、最終契約においてクロージングの前提条件とするなどの対応をすることがあります。
買い集めにおいては、ある株主に対する譲渡対価と別の株主に対する譲渡対価で差が生じる場合、その差額については寄付金認定されるなど税務上の問題が生じるおそれがあるため、なるべく乖離が生じないよう留意する必要があります。
なお、経営株主が全株式取得をクロージングの前提条件とすることに応じない場合、譲渡案として、少なくともクロージン後にキャッシュアウトによる100%株式取得が可能になるよう、総議決権の90%(特別支配株主による株式等売渡請求(会社法第179条))又は3分の2以上(株式併合によるキャッシュアウト(会社法第180条第2項、第309条第2項))の株式の取得を求めるべきです。
4 名義株主の存在
平成2年商法改正前は会社の設立のためには発起人が7名以上必要であり、設立にあたって発起人7人を揃えるために第三者(名義株主)から名義を借りて発起人とし、出資自体は創業者などの名義借用者が行うということが行われていました。
こうした場合に法的には、実際に出資を行っている創業者(名義借用者)が真正の株主になるというのが判例の立場ですが、平成2年以前に設立された対象会社においては、設立にあたっての実質株主を認定するための客観的資料が残存していないことも少なくありません。
したがって、名義株主が自身が真の株主であるとして権利主張をしてきた場合、名義株に株主名簿の名義を経営株主などの実質株主名義に変更することの同意書を、同意書を作成することの対価(いわゆるハンコ代)を支払って作成してもらうことが考えられます。
M&Aについて⑴ ~ M&Aの流れ
M&Aについて⑵ ~ DDとは
M&Aについて⑶ ~ 基本合意とは
M&Aについて⑷ ~ 企業価値評価とは
法務DD⑴ ~ 法務DDとは
法務DD⑵ ~ 法務DDの流れ
法務DD⑶ ~ 株式・株主について