営業損害の主張・立証方法⑶ ~ 請求書の作成・送付
企業法務財務・会計営業損害の主張立証方法⑶ ~ 請求書の作成・送付、回答書の作成・送付
7 請求書の作成・送付
1 内容証明郵便での請求書送付
営業損害の賠償請求等を行う場合、突然訴訟を起こすというのではなく、通常、訴訟前に交渉により解決することを試みるため、請求書を送付します。
請求書に関しては、必ずしも内容証明郵便で送付する必要はありませんが、債務不履行に基づく損害賠償での請求をする場合、期限の定めがない債務の不履行ということで、債務の履行を請求した日の翌日が遅延損害金の起算点となるため、内容証明郵便で行う必要があると考えられます。
時効更新の必要性がある場合、内容証明郵便で送付する必要性が高まることもいうまでもありません。
このほか、損害賠償請求を行う強い意思を示すということで、あえて内容証明郵便にて送付するという考え方もあります。
なお、内容証明郵便では、決算書等の資料を同封することはできませんので、資料を添付する場合には、配達証明付き郵便などの別便で送付することとなります。
2 損害賠償請求金額
事案に応じて、売上高ベース、売上総利益率(粗利益率)ベース、限界利益ベースなどで損害賠償請求金額を算出し、請求します。
この点いかなる方法(ベース)で損害賠償請求を行うべきかについては、訴訟外での解決が図れないで訴訟提起等に至った場合にも当初請求におけるロジックを維持することができるかどうかも検討する必要があるものと考えられます。
例えば、卸売業・小売業の場合、販売した商品の仕入原価が売上原価になるため、明らかな変動費である売上原価を控除した売上総利益ベースでの損害算定を行うという方法が考えられます。
ただし、製造業では売上原価に固定費と変動費がともに含まれることに留意する必要があります。
3 根拠資料の引用・添付について
営業損害の請求にあたっては、売上高ベース、粗利益ベース、限界利益ベースのいずれで請求するにしろ、会計上の数値を引用することになります。
ここで、損害賠償請求者側において、請求書に決算書等の会計資料を添付すべきか、添付するとしてどの程度添付するのかを検討する必要があります。
なお、会計資料として、企業は外部公表用の財務諸表である損益計算書だけでなく、内部管理用に月次損益計算書、事業別の損益状況資料、事業セグメント損益計算書、商品別の損益データなどの内部資料を作成・保管・使用していることがあり、作成済みでなくとも、企業のデータを利用して新たに作成できることがあります。
このような内容資料を引用するほか、例えば季節性の変動がある場合には、単純に年ベースの数字である損益計算書ではなく、月次の損益計算書が必要になります。なお、通常の企業では月次決算を行って、月次の損益計算書・貸借対照表などを含む月次試算表を作成しています。
ただし、内部資料に関しては、場合によっては、数値にそこまでの信用性を担保していないこと、決算上必要な調整事項が行われていないことなども考えられます。
ここで、事後的に数値を変更することになると、決算書の信憑性自体が疑われることになりかねないため、精査する必要があります。
根拠資料を添付するかどうかについては、不用意に相手方に反論の材料を与える必要はないこと、相手方からの開示請求がなされないという状況も考えられないではないことから、根拠資料の添付まではしないという方法も考えられます。
その他、書面の内容に余計な情報や過誤情報を含まないよう留意する必要があると考えられます。
特に膨大な資料の集計であるという会計資料の性格上、数字が二転三転するようであれば会計資料の信用性が得られなくなるおそれがあり、個別の立証を集計していくというのが困難であることもあり、訴訟上深刻な影響が生じることも考えられます。
なお、営業損害の主張・立証方法については、以下もご参照ください。
営業損害の主張・立証方法⑴ ~ 営業損害とは
営業損害の主張・立証方法⑵ ~ 変動費・固定費、損益分岐点、固変分解について
営業損害の主張・立証方法⑶ ~ 請求書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑷ ~ 回答書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑸ ~ 訴状段階・答弁書段階について