会社から株式の買取価格を提示されたものの金額に納得できない、あるいは株主から株式買取請求を受けて価格の協議が進まない——このような場面では、当事者間の話し合いだけでは結論が出ないことが少なくありません。会社法には、価格について折り合えない場合に、裁判所に価格の決定を求める手続が用意されています。
この記事では、株式の買取価格で合意できないときに、どの制度に基づく請求なのかをどう見極めるか、いつまでに何を確認すべきか、裁判所の手続はどのように進むのか、株主側・会社側それぞれが準備すべき資料は何かを整理します。
なお、適用される条文、申立ての期限、価格の考え方は、もとになっている会社法上の手続によって異なります。ご自身の状況にどの期限が当てはまるかは、通知書、株主総会資料、効力発生日、買取請求の時期などの具体的な資料を確認したうえで判断する必要があります。一般論としての結論と、個別事情による結論は分けて考えることが大切です。
株式の買取価格でお悩みの場合、まずは状況の整理から始めることができます。神戸みらい法律会計事務所では、資料を確認したうえで、申立ての期限や価格の根拠、対応方針を検討するご相談をお受けしています。
Contents
株式の買取価格で合意できないときにまず確認すること
価格で合意できない場合、「提示額が低い」「請求額が高すぎる」と評価する前に、手続の前提を整理することが重要です。最初に確認したいのは、次の三点です。
- どの会社法上の手続に基づく買取請求・取得なのか
- 効力発生日や取得日はいつか、通知書や公告はいつ届いたか
- 価格協議の経過と、申立ての期限が迫っていないか
これらは、いずれも手続の入口を左右します。株式の価格が問題になる場面は一つではなく、根拠条文・申立てができる人・申立ての期限・利息の起算点・管轄が、制度ごとに異なるためです。
どの制度に基づく買取請求かで手続が変わります
「株式の買取価格でもめている」と一口に言っても、その背景にある会社法上の手続は様々です。代表的なものとして、組織再編や定款変更などに反対する株主が会社に買取りを求める「反対株主の株式買取請求」、譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しない場合の「売買価格の決定」、議決権の10分の9以上を有する株主が少数株主の株式を取得する「特別支配株主の株式等売渡請求」などがあります。どの手続に当たるかによって、後述する期限や申立ての枠組みが変わるため、まずは自分(自社)が関係している場面を特定することが出発点になります。
期限・効力発生日・通知書を先に確認しましょう
価格の話し合いがまとまらないまま時間が経過すると、裁判所への申立てができる期間自体が過ぎてしまうおそれがあります。会社の対応が遅い、必要な資料が出てこないといった事情があっても、期限は進みます。協議が停滞していることと、手続の期限管理は、別の問題として並行して進める必要があります。価格の主張を組み立てる前に、効力発生日(または取得日)、通知書や公告の到達時期、買取請求を行った日、協議の経過を時系列で整理しておくことをおすすめします。
株式買取価格決定の申立てとは
価格協議で折り合わない場合に裁判所へ判断を求める手続
株式買取請求が行われた後、株式の価格について株主と会社の協議が調えば、会社は法律で定められた期間内に代金を支払います。一方、協議が調わない場合には、株主または会社が、裁判所に対して価格の決定を求める申立てをすることができます。最終的には、裁判所が「公正な価格」を判断することになります。
たとえば、定款変更や事業譲渡などに反対する株主の株式買取請求(会社法116条などに基づくもの)では、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その期間が満了した日の後30日以内に、株主または会社が裁判所へ価格の決定を申し立てることができるとされています(会社法117条)。協議が調った場合の支払期限は、効力発生日から60日以内です。
ただし、これは数ある手続の一例です。特別支配株主の株式等売渡請求や譲渡制限株式の売買価格決定では、申立ての期間や枠組みが異なります。一つの期限をすべての場面に当てはめないよう注意してください。
訴訟ではなく会社非訟事件として扱われる場合があります
株式の価格決定の申立ては、通常の民事訴訟とは異なり、「非訟事件」として扱われることがあります。非訟事件は、当事者が勝ち負けを争う訴訟とは性質が異なり、裁判所が後見的な立場から妥当な価格を形成していく手続です。裁判所が必ず会社側または株主側の主張額のいずれかをそのまま採用するとは限らず、提出された資料や鑑定などをもとに価格が決定されます。そのため、自分の希望する価格に理論的な根拠があることを、資料に基づいて裁判所に説明していくことが重要になります。
価格決定が問題になる主な場面
株式の価格決定は、複数の異なる場面で問題になります。中心となるのは反対株主の株式買取請求ですが、似て非なる手続もあるため、整理して理解しておくと混乱を避けられます。
反対株主の株式買取請求
会社が一定の重要な行為(株式の譲渡制限を新たに設ける定款変更、組織再編、事業譲渡、株式併合など)を行う場合に、それに反対する株主が、自分の株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できる制度です。投下した資本を回収する機会を、反対する株主に保障する趣旨とされています。
株式併合・組織再編・事業譲渡等
株式併合により端数が生じる場合、合併・会社分割・株式交換・株式移転などの組織再編、事業の重要な一部の譲渡などでも、反対株主の株式買取請求が問題になります。これらは根拠条文が場面ごとに分かれており、買取請求や価格決定の枠組みも対応する条文に従います。
譲渡制限株式や特別支配株主の手続との違い
これらとは趣旨や要件が異なる手続として、譲渡制限株式の譲渡を会社が承認しない場合の売買価格の決定や、議決権の10分の9以上を有する特別支配株主が少数株主の株式全部を取得する株式等売渡請求に伴う売買価格の決定があります。申立てができる期間や、申立てがなかった場合の扱いも異なります。たとえば、特別支配株主の株式等売渡請求では、取得日の20日前から取得日の前日までの間に売買価格の決定を申し立てるという、反対株主の株式買取請求とは異なる期間設定がとられています。詳細な手続の違いは事案ごとに確認が必要であり、本記事では全体像の整理にとどめ、個別の手続の詳細は別の機会に取り上げます。
| 手続の種類 | 主な場面 | 申立ての枠組み(概要) |
|---|---|---|
| 反対株主の株式買取請求 | 定款変更、組織再編、事業譲渡、株式併合などに反対する場合 | 価格協議が一定期間内に調わないとき、その後の一定期間内に株主・会社が申立て。申立てがない場合は撤回を検討する場面がある |
| 譲渡制限株式の売買価格決定 | 会社が株式譲渡を承認せず、会社・指定買取人が買い取る場合 | 価格協議が調わないとき、一定期間内に申立て。申立てがない場合の価格の扱いは反対株主の場合と異なる |
| 特別支配株主の株式等売渡請求に伴う売買価格決定 | 議決権の10分の9以上を持つ株主が少数株主の株式全部を取得する場合 | 取得日の一定期間前から取得日の前日までの間に、売渡株主が申立て |
上表は概要です。適用される期間・要件・効果は、もとになる手続と資料によって異なります。
申立てまでの流れと確認すべき期限
反対株主の株式買取請求を例にとると、おおまかな流れは次のとおりです。ただし、制度により通知の時期や期間が異なるため、必ず自分の事案に対応する条文と資料で確認してください。
通知・公告・株主総会資料の確認
会社は、一定の行為を行う場合、効力発生日の一定期間前までに、株主に対して通知または公告を行います。買取請求をするかどうかの判断は、ここから始まります。
反対通知と株式買取請求
株主総会の決議を要する場合、原則として、総会に先立って会社に反対の意思を通知し、かつ総会でも反対したうえで、定められた期間内に買取請求を行う必要があります。事前の反対と総会での反対の両方が求められる場面がある点に注意が必要です。
価格協議と申立ての検討
買取請求の後、価格について協議します。協議が調わない場合、定められた期間内に裁判所へ価格決定を申し立てるかどうかを検討します。協議が続いていても、申立ての期限は進むため、期限管理と並行して交渉を行います。
支払・利息・撤回の確認
協議が調えば、会社は定められた期間内に代金を支払います。裁判所が価格を決定した場合、一定の時点以後の法定利率による利息が問題になることがあります。また、買取請求を撤回できるかどうかは制度や時期によって異なります。これらの具体的な扱いは、根拠条文と資料の確認が必要です。
期限が関わる手続では、協議を続けながらも、申立ての要否を早めに検討しておくことが大切です。手続の段階や必要な資料の整理について、ご相談いただけます。
裁判所で価格を決める際に問題になりやすい資料
価格決定の手続では、会社の価値や株式の価値を裏づける資料が重要になります。株主側と会社側で、整理しておきたい資料は次のとおりです。
| 区分 | 整理しておきたい主な資料 |
|---|---|
| 株主側 | 定款、株主名簿、招集通知・議案資料・議事録、反対通知、株式買取請求書、会社からの価格提示書、組織再編契約書・計画書、決算書、株価算定書 |
| 会社側 | 上記に加え、価格提示の算定根拠資料、過去の株式取引事例、配当実績、役員報酬・関連当事者取引の資料、交渉経過を示すメール・議事録 |
株価算定書や会計資料の位置づけ
非上場株式では、株価算定書の内容が価格決定の重要な争点になります。算定の前提(採用した評価方法、基準となる時点、見込んだ将来の収益など)によって結論が変わるため、算定書の数値だけでなく、その前提条件まで確認することが大切です。会計・税務の知識と、会社法上の価格決定の考え方の両面から検討する必要があります。
非上場株式の価格決定で注意したい点
市場価格がないため評価方法が争点になりやすい
上場株式と異なり、非上場株式には市場価格がありません。そのため、どの評価方法を用い、どのような前提を置くかが、そのまま価格の争点になります。代表的な評価方法には、将来の収益を現在価値に割り引く方法(いわゆるDCF法)、純資産に着目する方法、配当に着目する方法、類似する会社と比較する方法などがあります。
税務評価額と会社法上の公正な価格は同じとは限らない
相続税や贈与税の計算で用いられる株式の評価額(財産評価基本通達による評価など)と、会社法上の「公正な価格」は、目的も考え方も異なります。税務上の評価額をそのまま会社法上の買取価格とすることはできません。両者が一致しないことは珍しくないため、混同しないよう注意が必要です。
評価方法は事案により異なります
どの評価方法が適切かは、会社の事業内容、規模、収益の状況、株式の保有状況、問題となっている手続の種類などによって異なります。「非上場株式は必ず純資産方式で決まる」といった単純化はできません。裁判例でも、複数の方法を組み合わせたり、事案に応じて重視する方法を変えたりしており、市場性が低いことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)の扱いも、場面によって判断が分かれています。実際の評価では、法務と会計・評価の両面からの検討が必要になります。
よく問題になるケース
会社の提示額に納得できない
提示額の根拠が示されない、説明が曖昧というケースは少なくありません。まずは提示額がどのような前提・方法で算定されたのかを確認し、対案となる算定の根拠を整理することが出発点になります。
申立期限が近い
協議が平行線のまま期限が迫る場合、交渉を続けるか、申立てを行うかを早めに判断する必要があります。期限を過ぎると裁判所への申立てができなくなる場合があるため、期限の確認は優先順位が高い事項です。
株価算定書の金額が複数ある
会社側・株主側がそれぞれ算定書を用意し、金額が大きく食い違うことがあります。どの前提の違いが差額を生んでいるのかを分析することが、議論の整理につながります。
同族会社や相続を背景に対立している
同族会社で経営方針や相続をめぐる対立がある場合、株式の評価が感情的な対立と結びつきやすくなります。事業承継の局面で株式の扱いが問題になることもあり、法務・会計・税務を横断する検討が必要になることがあります。
申立てを検討する前のチェックリスト
申立てを検討する前に、最低限、次の点を確認しておくと、方針を整理しやすくなります。すべての資料がそろっていなくても、期限が迫っている場合には、早めに確認に着手することをおすすめします。
株主側が確認したい項目
- どの会社法上の手続に基づく買取請求・取得かを特定したか
- 効力発生日・取得日、通知書・公告の時期を確認したか
- 反対通知・買取請求を、定められた期間内に行ったか
- 価格協議の経過と、申立ての期限を確認したか
- 価格の根拠となる資料(決算書、株価算定書など)を整理したか
会社側が確認したい項目
- 提示額の算定根拠と前提を説明できる状態か
- 通知・公告・株主総会の手続が適切に行われたか
- 協議の経過と、申立ての期限を把握しているか
- 価格決定や仮払いに備えた資金面の検討をしているか
- 少数株主対応や関連する税務上の論点を整理したか
期限は制度によって異なります。協議が続いていても申立ての期限は進むため、不明な点があれば早めに確認してください。
弁護士に相談するタイミング
価格決定が問題になる場面では、弁護士に相談することで、必ず価格が上がるわけでも、裁判所であれば有利になるわけでもありません。もっとも、相談を通じて、申立ての期限、価格の根拠、必要な資料、交渉の記録、株価算定資料の位置づけを整理し、交渉と申立てのどちらを選ぶかを含めた対応方針を検討しやすくなります。
特に、申立ての期限が関わる場面や、非上場株式で評価方法が争点になる場面では、法務と会計・評価の両面からの検討が必要になります。資料を確認したうえで見通しを検討するという観点から、早めに相談することには意味があります。
神戸みらい法律会計事務所では、株式の評価や価格決定が問題となる事案について、ご相談をお受けしています。費用や相談の流れについては、弁護士費用を確認するか、相談予約フォームへ進むことができます。担当弁護士については弁護士紹介を見るをご覧ください。

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