相続で会社の株式(自社株)を引き継いだ、会社や他の株主から株式の買取価格を示された、親族の間で株式の値段が折り合わない、M&Aで会社や株式の価値をどう見ればよいか分からない――非上場株式(取引相場のない株式)の評価は、こうしたさまざまな場面で問題になります。
非上場株式には上場株式のような市場価格がないため、「いくらが正しい評価額か」は一義的には決まりません。評価の目的や時点、株主の立場、会社の状況によって、用いられる評価方法も結論も変わってきます。
この記事では、非上場株式の評価が問題になる主な場面と、評価方法の全体像を整理します。具体的な計算式そのものよりも、「どの場面で、何のために、どの評価方法が問題になるのか」を俯瞰し、価格や株価算定書を前にしたときに確認すべき着眼点を持てるようにすることを目的としています。
株式の評価額や提示された価格について、資料を確認したうえで前提や見通しを整理したい方は、早めに弁護士へご相談ください。会社法上の手続が関係する場合もあります。
Contents
結論・全体像
はじめに要点を整理します。
- 非上場株式の評価は、場面によって「目的」と「方法」が異なります。
- 相続税の評価額、株式の買取価格、M&Aの取引価格は、必ずしも一致しません。
- 価格を検討する前に、評価目的・評価時点・株主の立場(支配権の有無)・必要資料・手続の有無を確認することが出発点になります。
- 価格の提示や株価算定書を受け取った場合は、その前提資料と採用された評価方法を確認することが重要です。
| 確認する軸 | 確認のポイント |
|---|---|
| 評価目的 | 税務申告か、当事者間の交渉か、裁判手続か、M&Aか。目的により採用する考え方が異なります。 |
| 評価時点 | いつ時点の評価か。相続・申告・契約など、どの時点を基準とするか。 |
| 株主の立場 | 支配株主か少数株主か。議決権割合や支配権の有無。 |
| 必要資料 | 定款・株主名簿・決算書・税務申告書・株主間契約・議事録など。 |
| 手続の有無 | 譲渡承認・価格決定・遺留分・遺産分割など、会社法上または裁判上の手続が関係するか。 |
税務上の評価額と、会社法上の買取価格・売買価格と、M&Aの取引価格は、同じものとして扱わないことが重要です。相続税申告のための評価額を、そのまま買取価格やM&A価格として使えるとは限りません。それぞれ目的・時点・前提が異なるため、別個に検討する必要があります。
非上場株式の基礎知識
- 非上場株式:証券取引所に上場しておらず、市場価格がない株式です。中小企業や同族会社、家族経営の会社の株式の多くがこれにあたります。
- 取引相場のない株式:相続税・贈与税の場面での呼び方です。上場株式や気配相場等のある株式以外の株式を指します。
- 自社株:経営者やその一族が保有する自社の株式を指す通称です。
- 譲渡制限株式:定款で、株式の譲渡に会社の承認を必要とする旨を定めた株式です。中小企業の多くがこの形をとっています。第三者へ自由に売れないため、価格や手続が問題になりやすい類型です。
- 同族株主・少数株主:会社を支配できる立場の株主か、配当を期待する程度の立場の株主か。この立場の違いによって、税務上の評価方法も実務上の価値も変わってきます。
評価が問題になる場面
代表的な場面を整理すると次のとおりです。同じ「評価」でも、誰が、何のために、どの資料を見るかが異なります。
| 場面 | 主な読者 | 評価の目的 | 主に確認する資料 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 相続税・贈与税の申告 | 相続人・受贈者 | 申告のための評価額の算定 | 決算書・税務申告書・株主名簿・定款 | 通達に沿った方法によります。買取やM&Aの価格とは目的が異なります。 |
| 遺産分割・遺留分 | 相続人 | 分割や遺留分の前提となる株式の価値 | 株主名簿・決算書・株価算定資料 | 評価時点や方法をめぐり争いになりやすい場面です。 |
| 親族・同族株主間の買取 | 経営者・株主 | 当事者間で合意する買取価格 | 定款・株主名簿・株主間契約・決算書 | 税務上の評価額と合意価格は別です。みなし贈与等の税務リスクは税理士等に確認します。 |
| 退職役員・従業員株主・少数株主からの買取 | 会社・経営者・少数株主 | 買取価格の検討 | 定款・株主名簿・株主間契約・議事録 | 譲渡制限や会社法上の手続の有無を確認します。 |
| 譲渡制限株式の譲渡承認・買取 | 株主・会社 | 承認手続と買取価格 | 定款・議事録・株主名簿 | 会社法に承認・買取・価格決定の手続と期限があります。期限管理が重要です。 |
| 経営権争い・株主間紛争 | 経営者・株主 | 紛争解決の前提となる株式評価 | 定款・株主間契約・議事録・決算書 | 立場により主張が対立しやすく、法務と会計の両面の検討が必要です。 |
| M&A・事業承継・株式譲渡 | 売主候補・買主候補 | 取引価格の検討 | 決算書・事業計画・デューデリジェンス資料・株価算定書 | 取引目的の評価は税務評価と異なります。将来性やシナジーが反映されることがあります。 |
評価方法の全体像
評価方法は、日本公認会計士協会の企業価値評価ガイドラインでは、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチ(コスト・アプローチ)の3つに整理されています。代表的な方法と特徴は次のとおりです。
| 評価方法 | 概要 | 使われやすい場面 | 確認すべき点 |
|---|---|---|---|
| 純資産価額方式・時価純資産法(ネットアセット/コスト) | 会社の純資産(資産から負債を控除した額)に着目します。簿価ベースか時価ベースかで結果が変わります。 | 小規模な会社、資産保有型の会社、清算を前提とする場面など。 | 不動産・有価証券の評価、含み損益、評価差額に対する税額の扱い。 |
| 類似業種比準方式(税務) | 類似する業種の上場会社の株価等に比準して評価する税務上の方法です。 | 相続税・贈与税の申告で、一定規模以上の会社の同族株主の株式など。 | 会社規模区分や比準要素の取り方。通達に沿った計算が必要です。 |
| 配当還元方式(税務) | 配当をもとに評価する特例的な税務上の方法です。評価額が低くなりやすい傾向があります。 | 相続税・贈与税の申告で、少数株主が取得する株式など。 | 株主の立場(同族株主か否か)の判定が結論を左右します。 |
| 収益還元法(インカム) | 将来見込まれる利益を一定の割引率で現在価値に直す方法です。 | 収益力を重視する評価、当事者間の交渉など。 | 利益計画の合理性、割引率の前提。 |
| DCF法(インカム) | 将来のキャッシュ・フローを割り引いて現在価値を求める方法です。 | M&A、裁判手続での価格算定など。 | 事業計画の合理性、割引率、継続価値の前提。前提次第で結果が大きく動きます。 |
| 類似会社比較法(マーケット) | 類似する上場会社の指標(倍率)を用いて評価する方法です。 | M&A、当事者間の交渉、裁判手続など。 | 比較対象会社の選定、倍率の取り方。 |
| 取引事例法(マーケット) | 過去の株式売買などの取引事例を参考にする方法です。 | 過去に取引実績がある場合など。 | 取引の独立性・時期・前提。 |
税務上の方式と評価実務上の方法の違い
税務評価で用いられる方式と、M&A・裁判で用いられる評価方法は、重なりつつも目的が異なります。同じ「配当還元」「純資産」でも、相続税・贈与税の通達による方式と、評価実務上の手法とでは前提が異なる場合があります。どの方法が適切かは、評価目的・株主の立場・会社の状況によって変わるため、一律には決まりません。
評価で確認すべき実務ポイント
価格や株価算定書を検討するときは、少なくとも次の点を確認します。
- 評価の目的(申告・交渉・裁判・M&Aのいずれか)。
- 評価の時点(どの時点を基準とするか)。
- 株式の種類(普通株式か種類株式か、譲渡制限の有無)。
- 議決権割合と支配権の有無。
- 会社の財務状況(直近の決算内容)。
- 不動産、関係会社株式、役員貸付金、借入金などの有無。
- 直近期に一時的な損益(特別利益・特別損失など)がないか。
- 将来計画・事業計画の合理性。
- 株価算定書がある場合、その前提条件(採用方法・割引率・基準時点など)。
- 税務・会計・法務で前提が食い違っていないか。
よく問題になるケース
以下は、一般的に問題になりやすい場面を整理したものです。
- 相続税の評価額を、そのまま買取価格としてよいか迷うケース。
- 会社から提示された買取価格が低いと感じるケース。
- 少数株主が株式を売りたいが、価格で合意できないケース。
- M&Aで、売主と買主の評価が大きく違うケース。
- 遺産分割や遺留分で、非上場株式の評価が争われるケース。
- 株価算定書はあるが、前提資料や前提条件に疑問があるケース。
こうした場面では、評価方法そのものだけでなく、「どの資料を前提に」「どの目的で」評価されているのかを確認することが、対応方針を整理する出発点になります。
手続前チェックリスト(評価を検討する前に確認したい資料)
- 定款
- 登記事項証明書
- 株主名簿
- 株券発行会社かどうかが分かる資料
- 株主総会・取締役会の議事録
- 株主間契約・投資契約・種類株式の内容が分かる資料
- 過去の株式譲渡契約書・買取合意書
- 決算書(貸借対照表・損益計算書など)
- 税務申告書・勘定科目内訳明細書
- 総勘定元帳・試算表
- 固定資産台帳・不動産関係資料
- 借入金明細
- 関係会社株式・投資有価証券の資料
- 事業計画・資金繰り表
- M&Aの場合は、意向表明書・基本合意書・デューデリジェンス資料・株価算定書
これらの資料を整理したうえで、評価方法や価格の前提を一緒に確認することで、対応方針を整理しやすくなります。会社法上の手続が関係する場合は、期限の確認も必要です。
弁護士に相談するタイミング
非上場株式の評価が関係する場面では、次のようなタイミングで一度確認しておくと、対応方針を整理しやすくなります。
- 相続税の申告前。
- 遺産分割協議書に署名する前。
- 遺留分の請求に回答する前。
- 株式の買取価格を提示された、または提示する前。
- 株式譲渡契約書・株主間契約・和解書に署名する前。
- 譲渡承認請求や価格決定の申立てなど、会社法上の手続を検討する前。
- M&Aの基本合意・価格交渉・デューデリジェンスの前。
- 少数株主との紛争が顕在化した段階。
- 税務・会計・法務の前提が食い違っていると感じる段階。
弁護士に相談しても、評価額が一つに確定したり、結果が保証されたりするわけではありません。もっとも、評価目的や前提資料を整理し、採用されている評価方法の前提を確認することで、法律上の見通しや対応方針を検討しやすくなります。なお、具体的な税額の計算や税務申告は税理士の業務であり、会計・税務面の検討が必要な場合は、税理士・公認会計士等との連携や確認が必要になります。
よくある質問(FAQ)
非上場株式の評価額は一つに決まりますか。
一義的には決まりません。評価の目的、評価時点、株主の立場、会社の状況、採用する評価方法によって結論が変わります。同じ会社の株式でも、相続税申告のための評価額と、買取価格やM&A価格が一致するとは限りません。
相続税の評価額を、そのまま買取価格にしてよいですか。
そのまま使えるとは限りません。相続税・贈与税の評価は通達に沿った方法によるものであり、当事者間の買取価格やM&A価格とは目的・前提が異なります。買取の場面では、みなし贈与等の税務リスクも問題になり得るため、税理士等への確認が必要になる場合があります。
会社から提示された株式の買取価格に納得できない場合はどうすればよいですか。
まず、提示価格の前提となった資料と採用された評価方法を確認することが出発点になります。譲渡制限株式の場合、会社法上の手続や価格決定の仕組みが関係することがあり、期限の管理も重要です。資料を確認したうえで、対応方針を検討する必要があります。
M&Aではどの評価方法が使われますか。
案件により異なりますが、DCF法などのインカム・アプローチや、類似会社比較法などのマーケット・アプローチが用いられることが多くあります。将来の事業計画やシナジーが反映される場合もあり、税務評価とは前提が異なります。前提資料と算定の根拠を確認することが重要です。
少数株主の株式は低く評価されますか。
場面によって異なります。相続税・贈与税の場面では、同族株主以外の少数株主が取得する株式に配当還元方式が用いられ、評価額が低くなりやすい傾向があります。一方、当事者間の交渉や裁判手続では、立場やディスカウントの扱いをめぐり結論が分かれることがあり、一律には決まりません。
株価算定書があれば十分ですか。
算定書があること自体は有用ですが、それだけで十分とは限りません。どの目的で、どの資料を前提に、どの評価方法・前提条件で算定されたかによって、評価額の意味合いが変わります。前提条件や採用方法を確認することが大切です。
相談前にどの資料を準備すればよいですか。
定款、株主名簿、決算書、税務申告書、株主間契約、議事録、株価算定書などがあると検討が進みやすくなります。M&Aの場合は、意向表明書や基本合意書、デューデリジェンス資料も参考になります。手元にある範囲で差し支えありません。
弁護士、税理士、公認会計士のどこに相談すべきですか。
場面によって異なります。会社法上の手続、買取価格や遺産分割・遺留分をめぐる争い、契約の検討は弁護士が扱う領域です。具体的な税額計算や税務申告は税理士の業務です。評価実務や会計面の検討が必要な場合は、公認会計士等との連携が有用です。複数の観点が関係する場合は、まず全体像を整理することをおすすめします。
まとめ
- 非上場株式の評価は、場面によって目的と方法が異なり、評価額は一義的には決まりません。
- 相続税の評価額、買取価格、M&A価格は、必ずしも一致しません。
- 価格を検討する前に、評価目的・評価時点・株主の立場・必要資料・手続の有無を確認します。
- 価格の提示や株価算定書を受け取ったら、前提資料と採用された評価方法を確認します。
- 会社法上の手続や税務・会計の検討が関係する場合は、早めに専門職へ確認することで、対応方針を整理しやすくなります。
非上場株式の評価や、買取・相続・M&Aに伴う株式の価格、会社法上の手続についてお悩みの方は、資料を確認したうえで見通しや対応方針を整理することができます。結果を保証するものではありませんが、判断材料を整理しやすくなります。最新のご相談方法や費用については、各案内をご確認ください。
本記事は、神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)に所属する弁護士が監修しています。
参考資料(公的資料)
- 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」
- 国税庁「財産評価基本通達」第8章「株式及び出資」
- 国税庁「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」
- e-Gov法令検索「会社法」
- 裁判所「裁判例検索」
- 日本公認会計士協会「企業価値評価ガイドライン」
- 中小企業庁・事業承継・引継ぎ支援に関する公的資料

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