交通事故で大切なご家族を突然亡くされ、深い悲しみのなかで、保険会社から示談案や損害計算書、同意書、免責証書、示談書への署名を求められている――そのような状況に置かれているご遺族は少なくありません。気持ちの整理がつかないうちに書類が届き、「この金額で署名してよいのか」「請求できるものはすべて含まれているのか」と不安を感じるのは自然なことです。
死亡事故の損害賠償では、慰謝料や逸失利益だけでなく、葬儀関係費用や亡くなるまでの治療関係費など、確認すべき損害項目が多岐にわたります。あわせて、誰が請求できるのか(相続人の範囲)、相続人が引き継ぐ損害と遺族自身に認められる慰謝料はどう違うのか、といった相続に関わる論点も整理する必要があります。
この記事では、神戸市須磨区の神戸みらい法律会計事務所が、死亡事故で示談する前にご遺族が確認しておきたい損害項目と相続関係の基本を整理します。結論からお伝えすると、示談書に署名する前に、損害項目に漏れがないか、相続人の範囲と請求できる人が整理できているかを確認しておくことが大切です。具体的な請求の可否や金額は、事故状況、証拠、収入資料、相続関係、保険内容によって変わります。最終的な判断は資料を確認したうえで行う必要がある点を、はじめにお断りしておきます。
示談案や損害計算書を受け取って判断に迷われている場合は、署名の前に内容を確認しておくと、損害項目や相続関係を整理しやすくなります。
Contents
死亡事故の示談前に確認したいことの全体像
はじめに、ご遺族が示談前に確認しておきたいポイントを整理します。詳しい内容は、後の各項目で説明します。
示談前に確認したい主なポイント
- 損害項目に漏れがないか(死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀関係費用、亡くなるまでの治療関係費など)
- 誰が請求できるのか(相続人の範囲、相続分、遺族固有の慰謝料)
- 相続人が承継する損害と、遺族固有の慰謝料を区別できているか
- 過失割合に争いがないか
- 弁護士費用特約を利用できる自動車保険の契約があるか
死亡事故では、いったん示談が成立すると、後から追加で請求することが難しくなる場合があります。だからこそ、署名の前に内容を確認しておくことに意味があります。ただし、何をどこまで請求できるかは個別事情により異なりますので、迷う場合は資料を整理したうえで検討することをおすすめします。
死亡事故で問題になる主な損害項目
死亡事故では、被害者ご本人に生じた損害と、ご遺族に生じた損害の両方が問題になります。主な損害項目は次のとおりです。保険会社から届いた損害計算書と照らし合わせ、抜けている費目がないかを確認することが第一歩です。
死亡慰謝料(本人分と遺族固有分)
死亡慰謝料には、亡くなったご本人の精神的損害に対する部分(本人分)と、ご遺族自身の精神的損害に対する部分(遺族固有分)があります。両者は性質が異なり、誰が請求できるかも一致しないことがあります。詳しくは後の「相続人が承継する損害と遺族固有の慰謝料の違い」で説明します。具体的な金額は、被害者の家庭での立場や事案により異なり、参照される基準によっても差があります。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者が亡くならなければ将来得られたはずの収入に対する賠償です。一般に、基礎収入、生活費控除、就労可能年数、中間利息控除といった要素を踏まえて算定されます。これらの前提のとり方によって結論が大きく変わるため、収入資料の確認が重要になります。高齢者、家事従事者、未成年者、自営業者などでは、基礎収入の考え方が争点になりやすい項目です。
葬儀関係費用
通夜・葬儀・墓石・仏壇などの費用や、ご遺体の搬送・処置にかかった費用が損害として問題になります。どこまでが賠償の対象になるかは事案により判断が分かれることがあり、領収書などの資料を整えておくことが大切です。具体的な目安額は、参照される基準により異なります。
死亡までの傷害部分の損害
事故から死亡までに一定の入院・治療期間があった場合には、その間に生じた損害も賠償の対象になり得ます。具体的には、死亡までの治療費、入院雑費、付添費、通院交通費、休業損害、入通院慰謝料、診断書や死亡診断書・死体検案書などの文書料といった費目です。死亡という結果に目が向きやすいため、亡くなるまでの傷害部分の損害が損害計算書から漏れていないかは、特に確認したいポイントです。
物損・弁護士費用相当額・遅延損害金
事故で破損した車両や所持品などの物的損害も損害として問題になります。また、裁判になった場合には、弁護士費用相当額や遅延損害金が認められることがあります。これらが認められるかどうかや範囲は事案により異なります。
| 損害項目 | 内容 | 確認・必要資料の例 |
|---|---|---|
| 死亡慰謝料 | 本人分と遺族固有分がある | 家族構成・扶養関係が分かる資料、戸籍 |
| death逸失利益 | 将来得られたはずの収入の賠償 | 源泉徴収票、確定申告書、給与明細、課税証明書 |
| 葬儀関係費用 | 通夜・葬儀・墓石・搬送費等 | 葬儀費用の領収書 |
| 死亡までの治療関係費 | 治療費・入院雑費・付添費・交通費等 | 診療報酬明細書、治療費明細、入通院日数の資料 |
| 死亡までの休業損害 | 死亡前の休業による減収 | 収入資料、勤務先の資料 |
| 死亡までの入通院慰謝料 | 死亡前の入通院期間の精神的損害 | 入通院日数の資料、診断書 |
| 文書料 | 死亡診断書・死体検案書・診断書等 | 各文書の領収書 |
| 物損 | 車両・所持品等の損害 | 修理見積書、写真 |
| 弁護士費用相当額・遅延損害金 | 裁判で認められることがある | 事案により異なる |
相続人が承継する損害と遺族固有の慰謝料の違い
死亡事故では、「誰が・どの権利を持つのか」を整理することが、損害項目の確認と同じくらい重要です。大きく分けて、被害者ご本人に生じて相続される損害と、ご遺族自身に生じる損害(遺族固有の慰謝料)があります。
被害者本人の請求権は相続される
被害者ご本人に生じた損害賠償請求権(死亡慰謝料の本人分、死亡逸失利益など)は、相続の対象になり得ると考えられています。最高裁判所も、被害者本人の慰謝料請求権が相続されることを認めています(最高裁昭和42年11月1日大法廷判決)。したがって、これらの請求権は相続人が承継して請求していくことになります。
遺族固有の慰謝料(民法711条)
これとは別に、ご遺族自身の精神的損害に対する慰謝料があります。民法711条は、「他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない」と定めており、これが近親者固有の慰謝料の根拠です。
ここで重要なのは、遺族固有の慰謝料は相続によって取得するものではなく、ご遺族自身に当初から認められる権利だという点です。そのため、相続放棄をした方であっても、遺族固有の慰謝料については請求できるのが原則です。なお、民法711条が明文で挙げるのは父母・配偶者・子ですが、最高裁は、これらと実質的に同視できる身分関係があり甚大な精神的苦痛を受けた者について、同条の類推適用を認めた例があります(最高裁昭和49年12月17日判決)。内縁の配偶者や兄弟姉妹などに認められるかは、関係性などの個別事情により判断が分かれます。
混同しやすいポイント 「相続人であること」と「遺族固有の慰謝料を請求できること」は、必ずしも一致しません。たとえば被害者に子がいる場合、父母は相続人にならないことがありますが、父母は遺族固有の慰謝料を請求できる立場にあり得ます。誰がどの権利を持つかは、相続関係を確認したうえで整理する必要があります。
相続人の範囲・相続分・相続人代表者
被害者本人分の損害を請求するには、まず相続人が誰かを確定する必要があります。配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹の関係に応じて相続人の範囲や相続分は変わり、代襲相続、胎児、養子、認知された子などが問題になる場合もあります。実務では、相続人代表者を立てて手続を進めることや、戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍、相続関係説明図をそろえることが必要になる場面が多くあります。具体的な相続分や分配は、相続人の構成や遺産分割協議の内容により変わるため、個別の確認が欠かせません。
| 区分 | 性質 | 請求できる人の考え方 |
|---|---|---|
| 被害者本人に生じた損害 (本人分慰謝料・逸失利益等) |
相続の対象になり得る | 相続人が承継して請求 |
| 遺族固有の慰謝料 (民法711条) |
遺族自身の権利 (相続財産ではない) |
父母・配偶者・子等 (相続放棄後も請求し得る) |
「自分は相続人なのか」「どの権利を請求できるのか」が整理しきれない場合は、戸籍などの資料を確認することで関係を整理しやすくなります。
自賠責保険・任意保険・裁判実務上の基準の関係
死亡事故の賠償を考えるうえで、自賠責保険(強制保険)と任意保険、そして裁判で参照される基準の関係を知っておくと、保険会社の提示内容を理解しやすくなります。
自賠責保険は、被害者救済のための基本的な補償を確保する制度です。国土交通省の資料によると、被害者1名あたりの支払限度額は、死亡による損害が最高3,000万円、死亡に至るまでの傷害による損害が最高120万円とされています。ただし、これはあくまで限度額であり、実際の損害がこれを上回る場合には、超える部分について加害者側の任意保険会社や加害者本人への請求を検討することになります。
任意保険会社から提示される金額と、裁判で参照される基準によって算定される金額とでは、結論が異なることがあります。そのため、保険会社から提示された金額が、ただちにすべての損害を反映したものとは限りません。提示額の妥当性は、損害項目と資料に基づいて確認する必要があります。なお、自賠責保険金(共済金)を請求する権利には消滅時効(3年)があり、損害賠償請求権そのものについても、人の生命・身体を害する不法行為では民法724条の2により消滅時効の期間が定められています。期間の起算点や具体的なあてはめは事案により異なるため、早めの確認が安全です。
示談前に確認すべきポイント
損害計算書の内訳と過失割合
保険会社から損害計算書が届いたら、まず費目の内訳を確認します。前述の損害項目が漏れていないか、計上された金額の前提は何か、という視点が大切です。あわせて、過失割合にも注意が必要です。過失割合は最終的な受取額に影響するため、提示された割合に争いがある場合は、実況見分調書やドライブレコーダー映像などの資料に基づいて検討する余地があります。
死亡逸失利益の前提(基礎収入・生活費控除・就労可能年数・中間利息控除)
死亡逸失利益は、基礎収入、生活費控除、就労可能年数、中間利息控除といった前提のとり方で金額が変わります。提示された逸失利益が、被害者の実際の収入や立場を踏まえたものになっているかを、収入資料と照らして確認することをおすすめします。
死亡までの治療関係費・休業損害の漏れ
事故から死亡までに入院・治療期間があったケースでは、その間の治療費や休業損害が計上されているかを確認します。死亡という結果に注目するあまり、亡くなるまでの傷害部分の損害が見落とされることがあるためです。
弁護士費用特約
ご自身やご家族が加入している自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合、その利用を検討できることがあります。被害者本人だけでなく、契約内容によってはご家族が利用できる場合もあります。利用できるかどうかや範囲は契約ごとに異なるため、保険証券や約款を確認することをおすすめします。
よく問題になるケース
死亡事故では、被害者の立場や事故の状況によって、確認すべき点が変わります。次のようなケースでは、特に丁寧な確認が必要になることがあります。
- 高齢者の死亡事故(逸失利益の基礎収入や就労可能年数の考え方が問題になりやすい)
- 家事に従事していた方(主婦・主夫)の死亡事故(基礎収入の考え方)
- 未成年者・学生・幼児の死亡事故(将来の収入の見込みの立て方)
- 自営業者・会社役員の死亡事故(収入の認定資料)
- 事故から死亡まで一定期間入院していたケース(傷害部分の損害の計上)
- 過失割合に争いがあるケース(刑事記録や映像などの確認)
- 相続人の一部と連絡が取れないケース(手続の進め方)
- 相続放棄を検討しているケース(後述の単純承認への注意)
- ご遺族の間で賠償金の分配に意見の違いがあるケース
相続放棄を検討している場合の注意 被害者ご本人に多額の負債があるなどの理由で相続放棄を検討している場合、注意が必要です。遺族固有の慰謝料は相続財産ではないため、原則として相続放棄をしても請求できますが、被害者本人に生じて相続される損害賠償金(相続財産にあたるもの)を保険会社から受け取る行為は、相続財産を処分したものとして法定単純承認(民法921条第1号)に当たり、相続放棄ができなくなるおそれがあります。どの範囲の受領がこれに当たるかは個別事情により判断が分かれるため、相続放棄を検討している場合は、賠償金を受領する前に確認することをおすすめします。
示談前に確認すべき資料チェックリスト
示談前、自賠責への請求前、示談書・免責証書・同意書への署名前、相続放棄を検討する場合、保険会社へ回答する前、賠償金を受領する前――これらの場面の前に、次の資料がそろっているかを確認しておくと、判断や相談がスムーズになります。
- 交通事故証明書
- 死亡診断書または死体検案書、診断書
- 診療報酬明細書、治療費明細、入通院日数が分かる資料
- 葬儀費用の領収書
- 源泉徴収票、確定申告書、給与明細、課税証明書などの収入資料
- 家族構成・扶養関係が分かる資料
- 戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍、相続関係説明図
- 保険会社の損害計算書、示談書、免責証書、同意書
- 過失割合に関する資料(実況見分調書、刑事記録、ドライブレコーダー映像、現場写真など)
- 自動車保険証券、弁護士費用特約の有無が分かる資料
上記の資料がそろっていなくても、現状を整理することから始められます。手元の資料を確認することで、見通しを検討しやすくなります。
弁護士に相談するタイミング
弁護士への相談は、結果を保証するものではありません。もっとも、損害項目や相続関係を資料に基づいて整理し、保険会社から提示された内容についての見通しを検討するうえでは、早い段階での相談が役立つことがあります。次のような場面は、相談を検討するとよいタイミングです。
| 場面 | 相談で整理しやすくなること |
|---|---|
| 損害計算書や示談案を受け取ったとき | 費目の漏れや前提の確認 |
| 相続人の範囲や請求できる人に迷うとき | 相続関係と請求権者の整理 |
| 過失割合に争いがあるとき | 資料に基づく検討の方針 |
| 死亡逸失利益の前提に疑問があるとき | 収入資料を踏まえた確認 |
| 相続放棄を検討しているとき | 賠償金受領との関係の確認 |
| 弁護士費用特約があるとき | 利用できる範囲の確認 |
よくある質問
死亡事故の示談前に、まず何を確認すべきですか。
損害項目に漏れがないか、相続人の範囲と請求できる人が整理できているか、過失割合に争いがないか、弁護士費用特約を使える契約があるか、といった点が出発点になります。具体的な確認の優先順位は、事案により異なります。
死亡慰謝料は誰が請求できますか。
死亡慰謝料には、被害者本人分(相続人が承継)と遺族固有分(民法711条の父母・配偶者・子など)があります。請求できる人は、相続関係や個別事情により変わります。
相続人でない家族も慰謝料を請求できますか。
遺族固有の慰謝料は相続とは別の権利です。民法711条は父母・配偶者・子を挙げていますが、これらと実質的に同視できる関係がある場合に類推適用を認めた裁判例もあります。認められるかは関係性などの個別事情により異なります。
相続放棄を考えている場合、示談してもよいですか。
遺族固有の慰謝料は相続放棄をしても請求できるのが原則ですが、被害者本人分(相続財産にあたるもの)の賠償金を受け取る行為は、法定単純承認に当たり相続放棄ができなくなるおそれがあります。受領前に確認することをおすすめします。該当性は個別事情により異なります。
保険会社から提示された金額に署名してよいですか。
提示額がすべての損害を反映しているとは限りません。損害項目と資料に基づいて内容を確認したうえで判断する必要があります。署名後は追加請求が難しくなる場合があるため、慎重な確認をおすすめします。
死亡事故で弁護士に相談するとき、何を持参すればよいですか。
交通事故証明書、死亡診断書・診断書、診療報酬明細書、収入資料、戸籍関係の資料、保険会社の損害計算書や示談書、保険証券などがあると、状況を整理しやすくなります。そろっていない場合でも相談は可能です。
弁護士費用特約は遺族でも使えることがありますか。
契約内容によっては、ご家族が利用できる場合があります。利用できるかどうかや範囲は契約ごとに異なるため、保険証券や約款を確認することをおすすめします。
まとめ
死亡事故の示談前に確認しておきたいポイントを整理します。
- 損害項目(死亡慰謝料、死亡逸失利益、葬儀関係費用、亡くなるまでの傷害部分の損害など)に漏れがないかを確認する
- 被害者本人に生じて相続される損害と、遺族固有の慰謝料を区別して考える
- 相続人の範囲・相続分・相続人代表者は、戸籍などの資料で確認する
- 相続放棄を検討している場合は、賠償金の受領が単純承認に当たらないかを確認する
- 保険会社の提示額は、損害項目と資料に基づいて妥当性を確認する
- 弁護士費用特約を使える契約があるかを確認する
これらの確認には資料がそろっているほど取り組みやすくなりますが、そろっていない段階でも、現状を整理することから始められます。判断に迷われる場合は、署名の前に一度確認することをおすすめします。
死亡事故の損害項目や相続関係について、資料を確認しながら見通しを整理したい場合は、神戸みらい法律会計事務所へご相談ください。示談の前に内容を確認することで、対応方針を整理しやすくなります。
監修者・執筆者
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)
本記事は、交通事故案件を取り扱う当事務所の弁護士が監修しています。担当弁護士の氏名・所属弁護士会・取扱分野については、弁護士紹介ページをご覧ください。
参考資料
- e-Gov法令検索 民法(https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089)
- e-Gov法令検索 自動車損害賠償保障法(https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC0000000097)
- 国土交通省 自賠責保険・共済の限度額と補償内容(https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/about/payment/index.html)
- 公益財団法人日弁連交通事故相談センター(https://n-tacc.or.jp/)

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