借金の返済が難しくなり、個人再生を検討し始めると、「自宅や自動車、保険、退職金はどうなるのか」「財産があると返済額が増えてしまうのか」といった不安を持つ方は少なくありません。個人再生は、自己破産とは異なり、財産が当然に処分される手続ではありません。もっとも、保有している財産の価値が、再生計画で返済する総額に影響することがあります。その仕組みを支えているのが「清算価値保障原則」と呼ばれる考え方です。
この記事では、個人再生で財産がどのように扱われるのか、清算価値保障原則とは何か、預貯金・生命保険・退職金・自動車・不動産などがどのように関係するのか、そして相談前に準備しておくとよい資料を整理します。先に結論の方向性をお伝えすると、個人再生で財産が「すべて残る」とも「すべて失われる」とも言い切ることはできません。財産の内容と返済能力を確認したうえで見通しを立てる必要があります。
この記事でわかること
- 個人再生で財産が返済額に影響する仕組み(清算価値保障原則)
- 預貯金・生命保険・退職金・自動車・不動産などの確認ポイント
- 財産の名義変更や処分で注意すべきこと
- 相談前に準備しておきたい資料
個人再生で財産がどう扱われるかは、財産の内容や家計の状況によって結論が変わります。資料を確認したうえで返済の見通しを整理したい方は、借金問題(債務整理)に対応する弁護士へご相談いただけます。
Contents
個人再生で財産が問題になる理由
個人再生は、裁判所の手続を通じて借金を大幅に減らし、原則として3年(事情により最長5年)かけて分割返済していく手続です。自己破産では、一定の財産が処分されて債権者への配当に充てられますが、個人再生では、そのように財産が当然に処分されることはありません。自宅や自動車を手元に残したまま借金を整理できる可能性がある点が、個人再生の大きな特徴です。
ただし、財産を処分しなくてよい代わりに、「もし自己破産をしていれば債権者に配当されたはずの金額」以上は返済しなければならない、というルールが設けられています。財産が多いほど、この金額が大きくなり、返済総額に影響することがあります。つまり、個人再生では財産そのものは残るものの、財産の価値に相当する金額は返済する、という置き換えの関係が生じうるのです。
清算価値保障原則とは
清算価値とは、仮に自己破産で財産を処分した場合に、債権者へ配当できると見込まれる金額のことです。清算価値保障原則とは、個人再生による返済総額が、この清算価値を下回ってはならないという考え方をいいます。
裁判所の説明でも、再生計画の返済総額は「債務者が自分の財産を処分して返済に充てる場合の額(清算価値)を上回らなければならない」とされています。財産を処分せずに済む代わりに、債権者が自己破産の場合よりも不利にならないようにする、というバランスを取るための原則です。法律上は、再生計画が「再生債権者の一般の利益に反するとき」は認可されないと定められており(民事再生法第174条第2項第4号)、ここから清算価値保障原則が導かれると理解されています(条文の具体的な適用は事案により異なります)。
清算価値保障原則に反する再生計画案を提出すると、修正を求められ、修正に応じない場合には認可されないことがあります。財産の内容を正確に把握し、清算価値の見通しを立てておくことが重要です。
個人再生の返済額はどのように決まるか
個人再生の返済総額は、複数の基準を比較し、そのうち最も高い金額を下回らないように決まります。手続の種類によって、比較する基準の数が異なります。
- 小規模個人再生:最低弁済基準額と清算価値の2つを比較します。
- 給与所得者等再生:上記に加えて、可処分所得の2年分という基準も比較します(基準が1つ増えるため、返済額が高くなる傾向があります)。
最低弁済基準額の目安
最低弁済基準額は、借金の総額(住宅ローンなどを除いた基準となる債権の額)に応じて法律で定められています。おおまかな目安は次のとおりです。実際の金額は債権の範囲の確定などにより変わるため、確認が必要です。
| 基準となる借金の総額 | 最低弁済基準額の目安 |
|---|---|
| 100万円未満 | 借金の総額と同額 |
| 100万円以上500万円以下 | 100万円 |
| 500万円超1500万円以下 | 借金の総額の5分の1 |
| 1500万円超3000万円以下 | 300万円 |
| 3000万円超5000万円以下 | 借金の総額の10分の1 |
最低弁済基準額そのものの考え方は、別の記事で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
清算価値基準・可処分所得基準との関係
最低弁済基準額が低くても、保有する財産の清算価値がそれを上回る場合には、清算価値の金額が返済総額の基準になります。たとえば、最低弁済基準額が100万円となるケースでも、清算価値が150万円であれば、返済総額は100万円を超える可能性があります。
給与所得者等再生では、さらに可処分所得の2年分という基準が加わります。可処分所得は、収入から税金・社会保険料・最低限度の生活費などを差し引いて計算され、最低弁済基準額や清算価値より高くなることもあります。どの手続を選ぶか、どの基準が返済額を左右するかは、債務額・財産内容・家計収支を確認したうえで検討する必要があります。
清算価値に影響しやすい財産
清算価値は、保有するさまざまな財産の価値を合計して算定します。主に問題になりやすい財産と、確認のポイントは次のとおりです。なお、少額の財産を計上しない基準や評価方法は、申立先の裁判所の運用や提出資料によって異なることがあります。
| 財産の種類 | 確認のポイント |
|---|---|
| 現金・預貯金 | 残高、複数口座の有無、申立前後の入出金の動き |
| 生命保険・個人年金 | 解約した場合の返戻金の有無と金額、契約者貸付の有無 |
| 退職金見込額 | 受給済みか、退職予定の有無、退職金規程・見込額証明書の取得可否 |
| 自動車・バイク | ローン・所有権留保の有無、査定額(時価)、仕事・生活での必要性 |
| 不動産 | 査定額、住宅ローン残高、担保権、共有持分の有無 |
| 有価証券・積立金 | 時価、評価方法 |
| 過払金・貸付金 | 回収できる可能性、金額 |
| 相続財産・事業用資産 | 取得状況、評価方法 |
預貯金・現金がある場合の注意点
現金や預貯金は、清算価値に影響しやすい代表的な財産です。自己破産では一定額までを手元に残せる扱い(自由財産)があり、個人再生の清算価値もこの考え方を踏まえて検討されます。もっとも、手元に残せる金額の基準や、預貯金をどこまで現金と同じように扱うかは、申立先の裁判所の運用によって異なることがあります。具体的な基準額は、資料を確認したうえで判断する必要があります。複数の口座がある場合や、申立て前後に大きな入出金がある場合は、その内容を整理しておくことが大切です。
生命保険・個人年金・積立金の確認ポイント
生命保険は、保険契約を続けられるかどうかではなく、「解約した場合に戻ってくるお金(解約返戻金)」の有無と金額が問題になりやすい財産です。掛け捨て型で解約返戻金がほとんどない保険は影響が小さい一方、貯蓄型の保険や個人年金は、解約返戻金が一定額に達していると清算価値に反映されることがあります。契約者貸付を利用している場合は、その金額を差し引いて考えるのが一般的です。なお、保険料を払い続けることで解約返戻金が増えていくため、申立てから再生計画案を提出するまでの間の増加分について、反映を求められることもあります。保険証券や解約返戻金額のわかる資料を準備しておくとよいでしょう。
退職金見込額がある場合の注意点
退職金は、現時点で受け取っているわけではなくても、将来受け取る見込みがある場合には、その一部が清算価値として考慮されることがあります。扱いは、すでに退職金を受け取っているか、近く退職することが確実か、当面は退職予定がないか、退職金規程や退職金見込額証明書を取得できるか、といった事情によって変わります。一般に、受給済みの退職金と、まだ退職予定がない場合の退職金見込額とでは、計上のしかたが異なります。具体的にどの程度が清算価値に計上されるか、その割合や計算方法は、申立先の裁判所の運用や個別事情によって異なるため、確認が必要です。
自動車・不動産・有価証券などの扱い
自動車は、ローンや所有権留保が残っているか、査定額(時価)がいくらか、仕事や生活でどの程度必要かを確認します。ローンが残っていて所有権がローン会社などに留保されている場合は、扱いが異なることがあります。
不動産は、査定額から住宅ローンなどの担保付き債務の残高を差し引いた金額が、清算価値の検討対象になります。査定額がローン残高を下回っていれば清算価値が生じないこともありますが、上回っていればその差額が反映されることがあります。共有の不動産は、ご自身の持分に応じて按分して考えます。住宅を手元に残す住宅資金特別条項(住宅ローン特則)の利用を検討している場合は、別の記事もあわせてご確認ください。
有価証券や積立金は時価で評価され、過払金は回収できる見込みのある金額が考慮されることがあります。いずれも、評価方法や計上の有無は事案により異なります。
家族名義の財産や財産移転で注意すべきこと
清算価値の対象になるのは、原則としてご本人の財産です。配偶者や家族の名義の預貯金・自動車などは、原則としてご本人の財産とは区別して考えます。もっとも、形式的には家族名義でも、実質的にはご本人の財産と評価される事情がある場合には、注意が必要です。資金の出どころや管理の実態によっては、慎重な検討が求められます。
申立てを前提に、財産を隠す、名義を家族へ移す、特定の債権者や親族だけに返済する、財産を不自然に安く処分するといった行為は避けてください。個人再生には、破産手続のように不当な財産処分を取り戻す制度(否認制度)は設けられていません(民事再生法第238条・第245条)。しかし、破産であれば取り戻せたはずの財産は、清算価値の算定に反映されることがあり、かえって不利になったり、手続上の問題が生じたりするおそれがあります。財産の処分や返済を行う前に、弁護士に相談することをおすすめします。
清算価値を確認するために準備したい資料
清算価値の見通しを立てるには、財産の内容がわかる資料を整理しておくことが役立ちます。相談前に、次のような資料を手元にそろえておくと、検討がスムーズになります。
- 預貯金通帳(複数口座すべて、直近の入出金がわかるもの)
- 生命保険・個人年金の保険証券、解約返戻金額のわかる資料
- 退職金規程、退職金見込額証明書(取得できる場合)
- 自動車の車検証、査定書
- 不動産の登記事項証明書、査定書、住宅ローンの残高証明書
- 給与明細、源泉徴収票
- 家計の収支がわかる資料
- 借入先の一覧(債権者名・残高のわかるもの)
すべてがそろっていなくても相談は可能です。手元にある資料から、まずは状況を整理することができます。
財産の内容によって、個人再生で返済する金額や、利用できる手続は変わってきます。任意整理・個人再生・自己破産のどれが適しているかも含め、資料を確認したうえで見通しを整理できます。
弁護士に相談するタイミング
個人再生における財産の扱いは、財産の種類や評価方法、家計の状況、そして申立先の裁判所の運用によって結論が変わります。「この財産は必ず残せる」「返済額は必ずこの金額になる」と一律に判断できるものではありません。そのため、財産を処分したり、保険を解約したり、家族に名義を移したりする前に、一度弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで、結果を保証できるわけではありませんが、保有する財産が清算価値にどう影響しうるか、どの手続が選択肢になるか、相談前に集めるべき資料は何かといった判断材料を整理しやすくなります。とくに、預貯金・保険・退職金・不動産が複数からむ場合や、財産の評価が難しい場合は、早めに見通しを立てておくと安心です。神戸みらい法律会計事務所では、借金問題(債務整理)に対応しています。
よくある質問
- 個人再生をすると預貯金はなくなりますか。
- 個人再生では、自己破産のように財産が当然に処分されるわけではないため、預貯金がそのまま没収されるわけではありません。ただし、預貯金の残高は清算価値として返済額に影響することがあります。手元に残せる金額の基準は裁判所の運用により異なるため、確認が必要です。
- 生命保険は解約しなければなりませんか。
- 保険契約を必ず解約しなければならないわけではありません。問題になりやすいのは、解約した場合に戻る解約返戻金の金額です。返戻金が一定額に達している場合は清算価値に反映されることがあります。扱いは契約内容や事案により異なります。
- 退職金があると個人再生の返済額は上がりますか。
- 退職金見込額の一部が清算価値として考慮され、返済額に影響することがあります。受給済みか、退職が確実か、退職予定がないかによって扱いが異なり、計上される割合や計算方法は裁判所の運用や個別事情により異なります。
- 家族名義の預貯金や車も清算価値に入りますか。
- 清算価値の対象は原則としてご本人の財産です。家族名義の財産は原則として区別して考えますが、実質的にご本人の財産と評価される事情がある場合は注意が必要です。個別の事情により判断が変わります。
- 財産が多いと個人再生はできませんか。
- 財産があること自体で個人再生ができなくなるわけではありません。ただし、清算価値が大きいと返済総額が高くなり、返済を続けられるかどうかが手続選択のポイントになります。家計の状況を含めて検討する必要があります。
- 財産を処分してから申し立ててもよいですか。
- 申立てを前提に財産を不自然に処分したり、名義を移したりすることは避けてください。破産であれば取り戻せたはずの財産は清算価値に反映されることがあり、かえって不利になるおそれがあります。処分の前に弁護士へご相談ください。
- 清算価値を確認するには何を準備すればよいですか。
- 預貯金通帳、保険証券や解約返戻金額のわかる資料、退職金規程・見込額証明書、車検証・査定書、不動産の登記事項証明書・査定書・ローン残高証明書、給与明細、家計収支のわかる資料などがあると検討しやすくなります。
まとめ
- 個人再生では財産が当然に処分されるわけではないが、財産の価値が返済総額に影響することがある。
- 清算価値保障原則により、返済総額は「自己破産なら配当されたはずの金額」を下回ることができない。
- 返済額は、最低弁済基準額・清算価値(給与所得者等再生では可処分所得の2年分も)を比較し、最も高い金額が基準になる。
- 預貯金・生命保険・退職金・自動車・不動産などが清算価値に影響しうるが、評価方法や基準は裁判所の運用・個別事情により異なる。
- 財産隠しや不自然な名義変更・処分は避け、処分や解約の前に資料を整理して相談することが大切。
次の行動として、まずは手元の通帳・保険・退職金・不動産に関する資料を整理し、財産の全体像を把握することをおすすめします。そのうえで、見通しを立てたい場合は弁護士にご相談ください。
個人再生で財産がどう扱われるか、どの手続が適しているかは、資料を確認したうえで見通しを検討できます。申立て・解約・財産処分の前に、一度ご相談いただくことをおすすめします。費用については弁護士費用ページをご確認ください。
監修者・執筆者
神戸みらい法律会計事務所(弁護士法人ひょうご支所)
弁護士・公認会計士 藤井 貴之(兵庫県弁護士会所属)
借金問題(債務整理)をはじめ、相続・企業法務などを取り扱っています。弁護士の紹介は、弁護士紹介ページをご覧ください。
参考資料

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