「もう何年も返していない借金について、突然、督促状や催告書が届いた」「債権回収会社や法律事務所の名義で、一括請求の通知が来た」「裁判所から書類が届いたが、放置してよいのか分からない」。このような不安から、この記事にたどり着いた方が多いのではないでしょうか。
長く支払っていない借金については、消滅時効を援用できる可能性があります。もっとも、一定の期間が過ぎただけで自動的に支払義務がなくなるわけではなく、最後に返済した時期や、過去の裁判手続の有無などによって結論は大きく変わります。ご自身の判断で債権者に連絡したり、一部を支払ったりすると、かえって不利になる場合もあります。
この記事では、消滅時効と「時効の援用」の基本的な考え方、確認しておきたいポイント、債権者へ連絡する前の注意点、裁判所から書類が届いた場合の対応などを整理します。結論として、まずは資料を確認したうえで、債権者への回答前・支払前・署名前に方針を整理することをおすすめします。なお、具体的な結論は個別の事情により異なります。
昔の借金について、督促状や裁判所からの書類が届いてお困りではありませんか。時効を援用できるかどうかは、資料を確認したうえで判断する必要があります。債権者へ連絡する前・お支払いの前に、一度ご相談いただくことで、対応方針を整理できます。
Contents
この記事で分かること
- 長く放置した借金について、消滅時効を援用できる可能性があること
- 期間が経過しただけでは支払義務が当然になくなるわけではないこと
- 「時効の援用」とは何か、どのような点が問題になるか
- 最終返済日のほか、裁判手続・債務承認などを確認する必要があること
- 債権者・債権回収会社に連絡する前に注意したいこと
- 裁判所から書類が届いた場合は、通常の督促状と異なる対応が必要なこと
- 時効援用が難しい場合の債務整理(任意整理・個人再生・自己破産)の概要
- 相談時に準備したい資料
まず確認したい結論
長期間にわたって返済も連絡もしていない借金については、消滅時効を援用できる可能性があります。一方で、最後の返済時期、期限の利益を失った日、過去の裁判手続や強制執行の有無、債務を認める言動の有無などによって、時効を主張できるかどうかは変わります。
そのため、督促状や請求書が届いても、すぐに債権者へ電話して支払の意思を示したり、一部だけ支払ったり、和解書・確認書に署名したりすることは、慎重に検討する必要があります。これらの行為が、かえって時効の主張を難しくしてしまう場合があるためです。
また、裁判所から「支払督促」「訴状」「差押え」に関する書類が届いている場合は、通常の督促状とは対応が異なります。これらは対応の期限が定められているため、放置しないことが重要です。
消滅時効の援用とは
消滅時効とは、権利者(債権者)が権利を一定期間行使しない場合に、その権利の消滅を主張できる制度です。借金でいえば、一定期間が経過した場合に、債務者が支払義務の消滅を主張できる仕組みです。
ここで重要なのは、期間が経過しただけでは足りないという点です。民法145条は、時効は「当事者」が援用しなければ、裁判所はこれによって裁判をすることができないと定めています。つまり、時効による利益を受けるためには、債務者の側から「時効を援用する(時効の利益を主張する)」という意思表示をする必要があります。なお、消滅時効については、保証人・物上保証人・第三取得者など、権利の消滅について正当な利益を有する者も援用できるとされています。
時効の利益は、時効の完成前にあらかじめ放棄することはできません(民法146条)。もっとも、時効が完成した後の対応によっては、結果的に時効を主張できなくなる場合があります(この点は後述します)。
実務上、時効の援用は、後日の争いに備えて、内容証明郵便など証拠に残る方法で行うことが多くあります。もっとも、援用通知を出す前に、そもそも時効が完成しているといえるか、相手方が誰かなどを資料で確認することが前提になります。
借金の時効期間を考えるときの基本
民法166条1項は、債権について、権利を行使することができることを知った時から5年間、または権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅すると定めています(いずれか早い方)。
もっとも、注意が必要なのは経過措置です。令和2年4月1日に施行された債権法改正(民法の一部を改正する法律)により時効期間の定めが整理されましたが、改正法の附則により、施行日より前に生じた債権(その原因である契約等が施行日前にされた場合を含みます)については、改正前の民法(旧法)が適用されます。
旧法のもとでは、商行為によって生じた債権は原則5年とされる一方、それ以外の債権は原則10年とされるなど、債権の種類によって時効期間が分かれていました。そのため、「消費者金融やカード会社の借金なら常に5年」と単純に決まるわけではなく、契約の時期、債権者の種類、債権の性質などをふまえた検討が必要です。
さらに、時効をいつから数えるか(起算点)も、最後に返済した日と必ずしも一致するとは限りません。分割払いの契約では、支払を怠ったことにより「期限の利益」を失った日などが問題になることがあり、契約書や取引履歴で確認する必要があります。これらは個別事情により異なるため、資料を確認したうえで判断する必要があります。
時効援用を検討できるか確認するポイント
時効を援用できるかどうかは、次のような点を資料で確認することが出発点になります。いずれか一つで結論が決まるものではなく、全体をあわせて検討します。
| 確認項目 | 見る資料 | 注意点 |
|---|---|---|
| 最後に返済した日 | 通帳、取引履歴、入出金明細 | 最終返済日が時効期間の目安になりますが、これだけで結論は出ません |
| 支払期日・期限の利益喪失日 | 契約書、請求書、約款 | 分割払いでは期限の利益を失った日が起算点となる場合があります |
| 一部返済や支払約束の有無 | 通帳、メール、書面、録音 | 債務を認める言動は時効を更新させる場合があります(民法152条) |
| 裁判・支払督促・判決・和解・調停の有無 | 裁判所からの書類、和解調書、調停調書 | 確定判決等で確定した権利の時効期間は10年です(民法169条1項) |
| 差押え・強制執行の有無 | 差押命令、執行関係書類 | 強制執行は時効の完成猶予・更新の原因となり得ます(民法148条) |
| 債権譲渡・保証会社・債権回収会社の有無 | 債権譲渡通知、各社からの通知 | 元の債権内容や最後の取引時期を確認する必要があります |
| 保証人・連帯保証人の有無 | 契約書、保証契約書 | 保証人がいる場合、対応の影響範囲を検討する必要があります |
| 信用情報・取引履歴 | 信用情報開示報告書、取引履歴 | 契約日・最終取引日などの確認に役立つ場合があります |
債権者・債権回収会社に連絡する前の注意点
督促状などが届くと、つい債権者や債権回収会社に電話をして事情を説明したくなるかもしれません。しかし、対応には注意が必要です。
民法152条は、債務者が債務の存在を認める(承認する)と、それまで経過した時効期間がリセットされ、新たに時効期間が進行する(時効の更新)と定めています。電話で「少しなら払えます」「分割にしてほしい」「もう少し待ってほしい」などと述べることや、一部を支払うこと、和解書・確認書に署名することは、債務の承認に当たり、時効を主張できなくなる可能性があります。
さらに、最高裁判所の判例(最判昭和41年4月20日)は、時効が完成した後に債務者が債務を承認した場合には、その時点で時効完成の事実を知らなかったときでも、その後に消滅時効を援用することは信義則上許されないとしています。つまり、すでに時効期間が経過していたとしても、その後のやり取りによって時効を主張できなくなる場合があるということです。
もっとも、どのような言動が「承認」に当たるかは個別事情により異なります。少なくとも、回答する前・支払う前・署名する前に、お手元の資料を確認することをおすすめします。
届いた書類別の対応
届いた書類が「通常の督促状」なのか「裁判所からの書類」なのかによって、対応の緊急度が大きく異なります。封筒の差出人や書類の表題を確認してください。
| 届いた書類 | 確認したい点・対応の方向性 |
|---|---|
| 普通郵便の督促状・催告書 | 民法150条の「催告」に当たり得ます。催告だけでは原則6か月の完成猶予にとどまりますが、内容と時期の確認が必要です |
| 債権譲渡通知 | 債権が債権回収会社などに移ったことの通知です。元の債権内容・最後の取引時期・譲渡の経緯を確認します |
| 法律事務所・債権回収会社からの通知 | 請求している主体、元の債権、過去の裁判手続の有無を確認します。すぐに支払意思を示さないよう注意が必要です |
| 支払督促(裁判所) | 裁判所からの書類です。送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てができます。放置すると仮執行宣言が付され、強制執行を受けるおそれがあります |
| 仮執行宣言付支払督促(裁判所) | 送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てができます。放置して確定すると、確定判決と同一の効力が生じます |
| 訴状(裁判所) | 期日や答弁書の提出期限が定められています。放置せず、期限内に対応する必要があります |
| 判決・和解調書・調停調書 | 確定判決等で確定した権利の時効期間は10年です(民法169条1項)。すでに時効が更新されている可能性があります |
| 債権差押命令(裁判所) | すでに強制執行の段階に入っています。早急な対応が必要です |
裁判所からの書類は、対応の期限が定められているものがあります。期限を確認し、放置しないことが重要です。判断に迷う場合は、早めに弁護士に相談してください。
「この書類は放置してよいのか」「電話をかけ直してよいのか」など、判断に迷われた場合は、お手元の書類を確認したうえで対応方針を整理できます。
時効援用通知を送る場合の流れ
時効の援用を検討する場合、一般的には次のような流れになります。
- 契約書、取引履歴、届いた書類などの資料を確認する
- 請求している相手方(債権者・債権回収会社・保証会社など)を確認する
- 最終取引時期・裁判手続の有無などから、時効が完成しているといえるかを検討する
- 援用通知の方法(内容証明郵便など、証拠に残る方法)を検討する
- 通知後、相手方の回答を確認する
- 時効の成否が争われた場合の対応を検討する
援用通知の文面は、債権の特定や記載内容によって効果が左右されることがあり、また裁判手続が先行している場合には通知だけでは対応できないことがあります。雛形をそのまま用いるのではなく、資料を確認したうえで判断することをおすすめします。
時効援用が難しい可能性があるケース
次のような事情がある場合には、時効の援用が難しい可能性があります。いずれも個別事情により結論は異なるため、資料の確認が必要です。
- 最近返済している、または分割払いの約束をした(債務承認により時効が更新されている可能性)
- 裁判・支払督促などで請求が確定している(確定判決と同一の効力、時効期間10年)
- 和解・調停・公正証書がある
- 差押え・強制執行を受けたことがある(時効の完成猶予・更新の可能性)
- 債務の種類が通常の借金と異なる(税金、国民健康保険料、養育費、婚姻費用、罰金、奨学金、個人間の貸付、事業上の債務、保証債務など)
- 保証人・担保が設定されているなどの特殊な事情がある
これらに当てはまる場合でも、直ちに「援用できない」と決まるわけではありません。逆に、当てはまらない場合でも、当然に時効が完成しているとは限りません。
時効援用が難しい場合の債務整理
時効の援用が難しい場合でも、借金の負担を整理する方法として、次のような債務整理の選択肢があります。
任意整理は、債権者と交渉して、将来利息や返済方法などを見直す手続です。個人再生は、裁判所の手続により借金を一定の割合まで圧縮し、原則として分割で返済していく手続です。自己破産は、裁判所の手続により、原則として返済義務を免れる手続です(免責許可が必要です)。
どの手続が適しているかは、借入の状況、収入や資産、住宅の有無などにより異なります。また、税金、国民健康保険料、養育費、罰金などは、通常の借金と異なる扱いになる場合がある点にも注意が必要です。具体的な手続の内容や費用については、借金問題(債務整理)の取扱業務を見るページや、弁護士費用を確認するページもご確認ください。
信用情報はどうなるか
借入や返済の状況は、信用情報機関に登録されています。主な機関として、CIC(主にクレジット会社等が加盟)、JICC(主に貸金業者等が加盟)、全国銀行個人信用情報センター(主に銀行等が加盟)があり、いずれも本人が自分の信用情報を確認できる開示制度を設けています。
時効を援用した後に、信用情報の登録内容がどのように変わるか、いつ削除・反映されるかは、信用情報機関・登録している会社・登録内容によって異なります。「時効を援用すればすぐに登録が消える」「すぐにローンやカードが利用できるようになる」と一概にはいえません。
ご自身の状況を確認したい場合は、各機関の開示制度を利用して、信用情報開示報告書を取り寄せる方法があります。
弁護士に相談するタイミング
次のような場面では、行動を起こす前に弁護士に相談することで、判断材料や対応方針を整理できます。
- 債権者・債権回収会社へ電話やメールで連絡する前
- 一部を返済する前
- 分割払いを申し出る前
- 和解書・確認書・回答書などに署名する前
- 支払督促・訴状・差押命令などが届いた直後
- 時効が完成しているかどうか、自分では判断できないとき
弁護士への相談は、結果を保証するものではありませんが、資料をもとに見通しや対応方針を整理することに役立ちます。
相談時に準備したい資料
相談の際は、次のような資料があると、状況を確認しやすくなります。すべてそろっていなくても構いません。
- 届いた督促状・催告書・封筒
- 債権回収会社・法律事務所からの通知
- 契約書、カード利用明細、請求書
- 返済履歴、通帳、入出金明細
- 裁判所から届いた書類一式
- 判決・和解調書・調停調書・公正証書
- 債権譲渡通知
- 信用情報開示報告書(取り寄せている場合)
- 他の借入や家計の状況が分かる資料
神戸みらい法律会計事務所へのご相談
神戸市須磨区・垂水区・西区・北区や明石市周辺で、昔の借金や督促状、裁判所からの書類にお悩みの方は、神戸みらい法律会計事務所にご相談ください。お手元の資料を確認したうえで、時効援用、任意整理、個人再生、自己破産などの対応方針を整理します。結果をお約束するものではありませんが、資料をもとに見通しを検討できます。
初回法律相談は無料です。受付時間は9時から20時まで(ご予約により夜間・土日も対応しています)。お電話でのご相談予約も承っています。
よくある質問
最後の返済から5年以上経っていれば、借金は時効ですか。
期間の経過だけで当然に時効が完成するわけではありません。契約の時期、債権者の種類、過去の裁判手続の有無などによって結論は変わり、時効を主張するには援用の意思表示も必要です。まずは資料を確認することをおすすめします。
時効援用は自分でできますか。
制度上は、ご本人で援用することも可能です。ただし、債務を認める言動や過去の裁判手続を見落とすと、かえって不利になるおそれがあります。資料を確認したうえで判断することをおすすめします。
債権回収会社から通知が届いた場合も時効援用できますか。
元の債権の内容、債権譲渡の経緯、最後の取引時期、過去の裁判手続の有無などによって異なります。通知が届いたこと自体で結論は決まりませんので、資料の確認が必要です。
債権者に電話しても大丈夫ですか。
電話で支払の意思を示すと、債務の承認に当たり、時効を主張できなくなる可能性があります。回答する前に、まず資料を確認することをおすすめします。
1円でも払うと時効援用できなくなりますか。
一部の返済は債務の承認に当たり得るため、時効を主張できなくなる可能性があります。ただし、具体的な評価は個別事情により異なります。支払う前にご確認ください。
支払督促が届いた場合も時効援用通知を送ればよいですか。
裁判所からの書類は、通常の督促状とは対応が異なります。支払督促は、送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てができます。放置しないことが重要です。
時効援用すると信用情報はすぐ消えますか。
信用情報の登録内容や削除・反映の時期は、機関・登録会社・登録内容により異なります。すぐに消えるとは限らず、一概にはいえません。
時効援用が難しい場合はどうすればよいですか。
任意整理・個人再生・自己破産などの債務整理を検討できます。状況により適した手続は異なりますので、ご相談ください。
まとめ
- 長期間支払っていない借金は、消滅時効を援用できる可能性があります
- 期間の経過だけでは確定せず、時効を主張するには援用が必要です
- 最終返済日・裁判手続・債務承認などによって結論が変わります
- 債権者への回答・支払・署名の前に、資料を確認することをおすすめします
- 裁判所からの書類は対応の期限を確認し、放置しないことが重要です
- 時効援用が難しい場合も、債務整理という選択肢があります
ご自身の状況に応じた具体的な見通しを知りたい場合は、相談予約フォームへ進むか、お電話でお問い合わせください。
監修・執筆
弁護士法人ひょうご支所 神戸みらい法律会計事務所
代表弁護士・公認会計士 藤井 貴之(通知税理士)
所属:兵庫県弁護士会/日本公認会計士協会兵庫会
取扱分野:借金問題(債務整理)、相続、交通事故、企業法務 ほか
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