交通事故で「胸髄損傷」「腰髄損傷」「胸腰髄損傷」あるいは「脊髄損傷」と診断され、両足が動きにくい、感覚が鈍い、排尿や排便がうまくいかないといった症状に直面すると、ご本人にもご家族にも大きな不安が生じます。「これからどうなるのか」「補償はどう進むのか」「今、何を確認しておけばよいのか」——入院やリハビリ、保険会社とのやり取りに追われるなかで、落ち着いて情報を整理する余裕がないことも少なくありません。
この記事では、交通事故で胸髄・腰髄などの脊髄を損傷された被害者の方とそのご家族に向けて、脊髄損傷の医学的な基礎、完全損傷・不全損傷の違い、後遺障害等級が判断される際の主な要素、請求を検討できる損害の項目、必要となる資料、後遺障害の認定手続の流れ、示談の前に確認したい事項、そして弁護士に相談する意味とタイミングを整理します。
先に結論の方向性をお伝えします。「胸髄損傷」「腰髄損傷」という診断名がついただけで、後遺障害の等級や賠償額が自動的に決まるわけではありません。麻痺の範囲と程度、介護の必要性、日常生活動作への影響、画像や神経学的所見、治療や症状の経過などを、資料に基づいて確認していく必要があります。特に、後遺障害等級、将来の介護費、逸失利益、住環境の整備などは、いったん示談書に署名すると後から見直すことが難しくなります。示談の前に、提示された内容と手元の資料を項目ごとに確認しておく意味は大きいといえます。なお、治療方法や回復の見通しといった医学的な判断は主治医が行うものであり、この記事は一般的な考え方の整理としてお読みください。個別の事情により結論は変わります。
脊髄損傷の補償について、資料を確認しながら整理したい方へ
弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所(南あわじ市)では、交通事故のご相談について初回無料の法律相談(予約制)を承っています。診断書や画像、保険会社からの書面などをご一緒に確認しながら、現在の争点と今後の手続を整理することができます。結果を保証するものではありませんが、次に確認すべき資料や対応の選択肢を具体的に整理できます。
Contents
まず押さえておきたい全体像
脊髄損傷の賠償は、けがの治療、症状固定、後遺障害の等級認定、損害の計算、示談交渉という流れで進みます。どの段階にいるかによって、確認しておくべきことが異なります。まずは全体像として、段階ごとの主な検討事項を一覧で示します。緊急度をあおる趣旨ではなく、ご自身やご家族が今どの段階にいるかを確認するための目安としてご覧ください。
| 段階 | 主に問題になりやすいこと | 確認・整理しておきたいこと |
|---|---|---|
| 事故直後・救急搬送 | 救命・手術、事故態様の記録 | 交通事故証明書、救急・初診の記録の保存 |
| 入院・急性期 | 麻痺や合併症の経過、家族の対応 | 診療記録・画像・手術記録、保険会社の連絡窓口 |
| リハビリ・回復期 | 残る症状、在宅復帰の準備 | リハビリ記録、日常生活の支障、介護の内容 |
| 症状固定の前後 | 症状固定の時期、治療費の扱い | 主治医の見解、これまでの経過の整理 |
| 後遺障害の申請前 | 後遺障害診断書、申請方法の選択 | 診断書の記載、画像・神経学的所見、必要資料 |
| 認定結果を受け取った後 | 等級への納得、異議申立ての要否 | 認定票と理由、次の選択肢 |
| 示談案が届いたとき・署名前 | 損害項目の漏れ、将来分の扱い | 提示内容の項目ごとの確認、清算条項 |
重要な考え方
- 診断名だけでなく、麻痺の範囲・程度、介護の必要性、日常生活への影響などが後遺障害の判断に関係します。
- 後遺障害慰謝料のほかにも、逸失利益、将来介護費、家屋や車両の改造費などが問題になり得ます。
- これらはいったん示談すると見直しが難しくなるため、署名の前に確認する意味があります。
脊椎と脊髄はどう違うか(基礎知識)
脊髄損傷を理解するうえで、まず「脊椎(せきつい)」と「脊髄(せきずい)」の違いを押さえると、その後の説明が分かりやすくなります。両者は名前が似ていますが、別のものを指します。
脊椎は、いわゆる背骨を構成する骨で、上から頚椎(首)・胸椎(胸から背中)・腰椎(腰)・仙椎・尾椎に分かれます。これに対して脊髄は、脊椎が作るトンネル(脊柱管)の中を通る中枢神経で、脳と体の各部をつなぐ重要な神経の束です。骨である脊椎と、神経である脊髄は別のものであり、脊椎の骨折があっても必ず脊髄損傷になるとは限らず、逆に骨傷が目立たなくても脊髄が損傷されることがあります。脊髄が傷つく仕組みも、単純な「圧迫」だけではなく、骨折や脱臼に伴う損傷、出血、腫れなど、さまざまな要因が関係します。損傷の有無や程度は、画像検査と医師の神経学的な診察によって評価されます。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 脊椎(せきつい) | 背骨を構成する骨。頚椎・胸椎・腰椎・仙椎・尾椎に分かれる。 |
| 脊髄(せきずい) | 脊柱管の中を通る中枢神経。脳と体をつなぐ。 |
| 髄節(ずいせつ) | 脊髄を機能的に区切った単位。頚髄・胸髄・腰髄・仙髄がある。 |
| 胸髄・腰髄 | 脊髄のうち胸部・腰部にあたる髄節。骨の「胸椎・腰椎」とは高さがずれる。 |
| 脊髄円錐(せきずいえんすい) | 脊髄の下端部分。成人ではおおむね第1腰椎から第2腰椎付近の高さで終わるとされる。 |
| 馬尾(ばび) | 脊髄円錐より下方で、腰やお尻・下肢へ向かう神経根が束になった部分。 |
「腰髄損傷」と「腰椎骨折」は同じではない
検索では「腰髄損傷」という言葉がよく使われますが、医学的には、脊髄の一部である「腰髄(髄節)」と、骨である「腰椎」とは指すものが異なります。ここが混同されやすい点です。
ポイントは、脊髄の髄節の高さと、背骨(椎骨)の高さは一致しないということです。脊髄は背骨より短く、成人では脊髄の下端(脊髄円錐)がおおむね第1〜第2腰椎の高さで終わるとされています。そのため、髄節としての「腰髄」や「仙髄」は、実際には胸椎の下部から第1腰椎付近の高さに位置し、その下方の腰椎の高さでは、脊髄そのものではなく馬尾(神経根の束)が通っています。したがって、「腰椎の骨折」と一口にいっても、損傷される神経は、脊髄円錐であることも、馬尾であることもあり、その症状は異なり得ます。腰椎骨折・脊髄円錐損傷・馬尾損傷・腰髄損傷を、すべて同じものとして扱うことはできません。どこがどの程度傷ついているかは、画像と神経学的所見をもとに医師が評価します。
完全損傷と不全損傷
脊髄損傷は、大きく完全損傷と不全損傷に分けて説明されます。完全損傷は、損傷した高さより下の運動機能と感覚が完全に失われた状態、不全損傷は、運動や感覚が一部残っている状態を指すのが一般的です。ただし、この評価は医師による神経学的な診察に基づいて行われるもので、受傷直後の状態だけで最終的に確定するわけではありません。重症度の評価には、ASIA機能障害尺度など、脊髄損傷の程度を段階的に評価する国際的な指標が用いられることがあります。
注意したいのは、「完全損傷だから一切回復しない」「不全損傷だから必ず歩ける」といった単純な断定はできないということです。回復の見込みや今後の経過は、損傷の部位・程度、合併症、治療やリハビリの経過などによって異なり、主治医が個別に判断します。法律事務所である当事務所が、治療方針や回復の可能性を判断したり、断定したりすることはできません。
四肢麻痺・対麻痺・単麻痺などの用語
麻痺は、その範囲によって呼び方が異なります。両手足すべてに及ぶものを四肢麻痺、両下肢に及ぶものを対麻痺、体の左右どちらか半身に及ぶものを片麻痺、一つの手足に限られるものを単麻痺と呼びます。一般に、損傷を受けた髄節の高さが高いほど、麻痺が及ぶ範囲は広くなる傾向があります。首の高さの頚髄が損傷されると四肢麻痺が問題になりやすく、胸髄や腰髄の高さの損傷では、両下肢の対麻痺が問題になりやすいとされています。もっとも、実際に現れる症状は損傷の部位や程度によって異なり、一律ではありません。
損傷部位によって現れる症状と生活への影響
脊髄損傷では、運動麻痺のほかにも、さまざまな症状が生じ得ます。どの症状がどの程度現れるかは、損傷した高さ(損傷高位)や損傷の程度によって異なります。以下は一般的に説明される症状であり、すべての方に同じように現れるものではありません。
- 下肢などの運動障害(力が入りにくい、動かしにくい)
- 感覚障害(触った感じや痛み・温度が分かりにくい、しびれ)
- 膀胱・直腸の障害(排尿や排便のコントロールが難しい)
- 体幹の機能への影響(座位の保持が難しいなど)
- 性機能への影響
- 痛みやしびれ、痙縮(けいしゅく=筋肉のつっぱり)
- 皮膚のトラブルや褥瘡(じょくそう=床ずれ)
- 血圧や発汗などの自律神経に関する症状
これらは、移乗・入浴・排泄・更衣・外出・就労といった日常生活の場面に影響します。特に、排尿・排便の障害や体幹機能の低下、疼痛といった症状は、外見からは分かりにくい一方で生活への影響が大きく、後遺障害の評価においても、本人・家族が具体的に記録しておくことが役立ちます。どのような場面で、どのような支障があり、どなたがどのような介助をしているのか——こうした記録は、後の資料整理の土台になります。
急性期の注意
受傷直後や治療中に、手足の麻痺が急に広がる、感覚がなくなる、息苦しさがある、尿が出ない・便が出ないといった変化がある場合は、速やかに医療機関を受診し、主治医の指示を仰いでください。症状の評価や治療は医療機関が行うものであり、この記事は法的な検討のための一般的な整理です。
後遺障害等級は診断名だけでは決まらない
脊髄損傷の賠償で中心になるのが、後遺障害の等級です。ここで最も重要なのは、冒頭でも触れたとおり、「胸髄損傷」「腰髄損傷」といった診断名だけで等級が決まるわけではないという点です。等級は、麻痺の範囲・程度、介護の必要性、日常生活動作への影響、画像所見、神経学的所見、症状の経過などを総合して判断されます。
後遺症と後遺障害、そして症状固定
まず言葉の整理です。治療を続けても残ってしまった症状を、日常的には「後遺症」と呼びます。これに対して賠償上の「後遺障害」は、一定の基準に照らして等級として評価されるもので、後遺症がそのまま等級として認定されるわけではありません。
その前提となるのが症状固定です。症状固定とは、治療を続けても症状の改善が見込めない状態に至ったことをいう医学的な考え方で、その時期は主治医の医学的な判断が基本になります。受傷から一定の期間が過ぎれば自動的に症状固定になる、あるいは後遺障害が確定する、というものではありません。「受傷後6か月」といった期間はあくまで一つの目安として語られることがあるにすぎず、実際には治療や症状の経過を踏まえて個別に検討されます。また、保険会社から治療費の支払い終了を打診されること(いわゆる打切り)と、医学的な症状固定とは同じではありません。両者を混同しないことが大切です。
神経系統の後遺障害等級(法令上の文言)
後遺障害の等級は、自動車損害賠償保障法施行令の別表に定められています。脊髄損傷は、主に「神経系統の機能又は精神の障害」として評価され、介護を要するものは別表第一に、それ以外は別表第二に区分されています。脊髄損傷で参照されることが多い等級の、法令上の主な文言(要旨)を示します。
| 区分・等級 | 法令上の主な内容(要旨) |
|---|---|
| 別表第一 第1級第1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
| 別表第一 第2級第1号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
| 別表第二 第3級第3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
| 別表第二 第5級第2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 別表第二 第7級第4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
| 別表第二 第9級第10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
| 別表第二 第12級第13号 | 局部に頑固な神経症状を残すもの |
別表第一(第1級・第2級)は介護を要する後遺障害として区分されており、常に介護を要するか、随時介護を要するかで等級が分かれます。脊髄損傷では、麻痺が重く介護が必要となる場合に、これらの上位等級が問題になります。もっとも、どの等級に当たるかは診断名ではなく、実際の障害の内容によって判断されます。
麻痺の範囲・程度と等級の考え方(実務上の整理)
実務上、脊髄損傷による麻痺は、その範囲(四肢麻痺・対麻痺・単麻痺など)と程度(高度・中等度・軽度)、そして介護の必要性を組み合わせて、どの等級に相当するかが検討されます。以下は、労災保険の認定基準(厚生労働省の通達)で整理されている考え方を、おおまかな目安として簡略化したものです。実際の認定は個別の医学的所見によって判断され、この表のとおりに決まるものではありません。
| 麻痺の範囲・程度・介護の要否(例) | 参照される等級の目安 |
|---|---|
| 高度の四肢麻痺・高度の対麻痺、または常に介護を要する重い麻痺 | 第1級(別表第一) |
| 中等度の四肢麻痺、または随時介護を要する麻痺 | 第2級(別表第一) |
| 軽度の四肢麻痺、または中等度の対麻痺(介護を要しない程度) | 第3級 |
| 軽度の対麻痺、一下肢の高度の単麻痺 | 第5級 |
| 一下肢の中等度の単麻痺 | 第7級 |
| 一下肢の軽度の単麻痺 | 第9級 |
| 明らかな運動麻痺は残らないが、広い範囲の感覚障害などが残るもの | 第12級 |
このように、同じ「対麻痺」でも、程度や介護の必要性によって想定される等級は変わります。また、脊髄損傷では、両下肢の麻痺だけでなく、膀胱・直腸の障害など他の障害を伴うことがあり、複数の障害がある場合には、等級の併合や、既存の障害がある場合の加重といった調整が問題になることもあります。これらは正確な資料に基づく検討が必要であり、単純化して結論を出せるものではありません。
請求を検討する主な損害項目
脊髄損傷のように重い後遺障害が残る可能性がある場合、損害の項目は多岐にわたります。もっとも、これらがすべて当然に、また満額で認められるわけではありません。事故との因果関係、必要性、相当性、将来の使用期間や交換時期などについて、資料に基づく確認が必要です。まず全体像を示し、その後に主な項目を説明します。
| 区分 | 主な項目 |
|---|---|
| 治療・療養に関するもの | 治療費、入院雑費、通院交通費、付添看護費など |
| 収入・稼働に関するもの | 休業損害、後遺障害逸失利益 |
| 精神的損害 | 傷害慰謝料、後遺障害慰謝料(近親者固有の慰謝料が問題となる場合もある) |
| 将来にわたるもの | 将来介護費、将来の治療・リハビリ費、医療器具・介護用品・消耗品 |
| 環境整備に関するもの | 家屋改造費、自動車改造費、車椅子・装具などの補助具、転居費用など |
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、後遺障害が残ったこと自体に対する精神的損害の賠償です。金額は等級に応じて検討され、賠償額の算定には、自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、裁判実務上参照される基準(いわゆる弁護士基準・裁判基準)という複数の考え方があります。どの基準を前提にするかによって水準が異なり得ます。具体的な金額は、等級、基準、個別事情によって変わるため、資料を確認したうえで検討する必要があります。各基準の位置づけについては、弁護士基準による損害賠償額の算定について読むこともご参考ください。
逸失利益
後遺障害逸失利益は、後遺障害が残ったことで将来の労働能力が制限され、収入が減少すると見込まれることに対する賠償です。一般的には、事故前の収入(基礎収入)に、労働能力の喪失の程度(労働能力喪失率)と、その影響が続く期間(労働能力喪失期間)に対応する係数を掛け合わせて算定されます。
ここで注意したいのは、等級ごとに参照される労働能力喪失率の目安はあるものの、それがそのまま逸失利益の金額を自動的に決めるわけではないという点です。脊髄損傷では、実際の就労への影響、職種、年齢、将来の昇進や転職の可能性などを踏まえて、個別に検討されます。基礎収入の考え方も、給与所得者・自営業者・家事従事者などで異なります。重い脊髄損傷では労働能力への影響が大きく評価されることが多い一方で、金額は事案によって差が生じますので、資料に基づく検討が欠かせません。
将来介護費
介護を要する脊髄損傷では、将来介護費が大きな項目になります。将来介護費は、介護の内容や程度、ご家族(近親者)が介護するのか職業付添人に依頼するのか、必要となる時間、平均余命などを踏まえて検討されます。実際にどの範囲で認められるかは、症状の程度や介護の実態を示す資料によって左右され、一律に決まるものではありません。だからこそ、日々の介護の内容を具体的に記録しておくことが、後の検討に役立ちます。
家屋・車両の改造、装具・福祉用具
車椅子での生活や在宅復帰にあたっては、自宅のバリアフリー化などの家屋改造費、車の運転や乗降のための自動車改造費、車椅子・装具・その他の福祉用具の費用が問題になることがあります。これらは、事故との因果関係、必要性、相当性に加え、将来の買い替えや更新の必要性まで含めて検討されます。見積書・領収書などの資料が重要になります。すべてが当然に認められるわけではなく、必要性や相当性の説明が求められます。損害賠償の項目全体の考え方については、後遺障害に関する当事務所の解説(後遺障害等級と逸失利益の考え方を読む)もあわせてご確認ください。
後遺障害の申請前・示談前に、損害項目を確認したい方へ
将来介護費や逸失利益、家屋・車両の改造費などは、示談の段階で見落とされたり、十分に反映されなかったりすることがあります。署名の前であれば、提示された損害項目に漏れがないかを一つずつ確認することができます。資料をご用意のうえ、一度ご相談ください。
後遺障害の認定で確認される資料
後遺障害の等級は、複数の資料を総合して判断されます。特定の検査を受けさえすれば必ず認定される、画像に所見があれば必ず事故と結びつくといった単純なものではありません。事故直後からの症状の経過、診療の記録、検査、リハビリの状況、日常生活上の支障などを、あわせて確認していくことになります。主に関係する資料は次のとおりです。
- 画像資料(MRI、CT、レントゲンなど)と画像診断報告書
- 神経学的所見(麻痺の範囲・程度、反射、感覚などの診察結果)
- 後遺障害診断書
- 診療録(カルテ)、看護記録、手術記録、退院時サマリー
- リハビリテーションの記録
- 日常生活動作や介護の状況が分かる記録
- 就労状況・収入が分かる資料
- 福祉用具・家屋改造などの見積書・領収書
- 事故態様が分かる資料(交通事故証明書、実況見分に関する資料など)
脊髄損傷では、ご本人が自ら資料を集めることが難しい場合があります。ご家族が確認・準備しやすいよう、代表的な資料をチェックリストにまとめました。すべてがそろっていなくても、お持ちの範囲で差し支えありません。取得の方法は、医療機関や制度によって取扱いが異なりますので、個別に確認が必要です。
ご家族が確認・準備しておきたい資料(例)
- 交通事故証明書、救急活動記録
- 初診・入院の診療記録、看護記録、手術記録
- 画像データ(MRI・CTなど)と画像診断報告書
- リハビリ記録、退院時サマリー
- 後遺障害診断書、後遺障害等級の認定票
- 保険会社とのやり取り(書面・メール・メモ)
- 休業や収入が分かる資料
- 介護の内容や日常生活の支障を記録した日誌
- 家屋改造・車両改造・福祉用具の見積書
- 示談案・損害計算書、自動車保険証券(弁護士費用特約の有無が分かる資料)
後遺障害等級認定から示談までの手続の流れ
脊髄損傷の賠償は、一般に次のような流れで進みます。ただし、事案によって順序や方法は異なり、必ずこのとおりに進むわけではありません。
- 治療・リハビリ
- 症状固定(主治医の医学的判断が基本)
- 後遺障害診断書の作成
- 後遺障害等級の認定申請(事前認定または被害者請求)
- 損害保険料率算出機構による損害調査・等級の判断
- 認定結果の確認(必要に応じて異議申立てなど)
- 損害額の計算
- 示談交渉
- 合意に至らない場合、紛争解決手続や訴訟の検討
事前認定と被害者請求
後遺障害の等級認定の申請方法には、大きく二つあります。一つは、加害者側の任意保険会社を通じて手続する方法(いわゆる事前認定)です。もう一つは、被害者自身が加害者側の自賠責保険に直接請求する被害者請求(自動車損害賠償保障法第16条)です。損害保険料率算出機構(自賠責損害調査事務所)が、損害調査を行い、その結果に基づいて等級が判断される仕組みです。
どちらの方法にも特徴があり、提出する資料の範囲や関与の程度が異なります。どちらが適しているかは、資料の状況や事案の内容によって異なりますので、一律にどちらがよいと決まるものではありません。いずれの方法でも、認定される等級や結果を保証できるものではない点は共通です。
認定結果を受け取った後・異議申立て
認定結果が出たら、まず等級とその理由を確認します。非該当であった場合や、想定より低い等級であった場合には、異議申立てを検討することがあります。異議申立ては、新たな資料や医学的な意見を追加して、再度の判断を求める手続です。ただし、異議申立てをすれば必ず結果が変わるわけではありません。認定票と理由をお手元に、追加できる資料があるか、どの点が評価されなかったのかを確認したうえで、対応の選択肢を検討することになります。自賠責保険・共済に関する紛争については、一般財団法人自賠責保険・共済紛争処理機構による紛争処理の仕組みもあります。
よく問題になりやすいケース
脊髄損傷の賠償では、次のような場面で迷いや行き違いが生じやすいといえます。いずれも一般的な整理であり、結論は個別の事情によって異なります。
- 歩ける場合でも、排尿・排便の障害や体幹機能の低下などが残っているのに、「軽い」と受け止められてしまう
- 画像所見と実際の症状の評価が一致せず、説明が難しい
- 排尿・排便の障害や疼痛が、後遺障害診断書に十分に反映されていない
- ご家族による介護の内容が記録されておらず、将来介護費の検討材料が乏しい
- 将来介護費や家屋改造費が、示談案に含まれていない、または少なく見積もられている
- 保険会社から症状固定や治療費の打切りを打診された
- 後遺障害の等級が非該当、または想定より低い等級となった
- 両下肢の麻痺と膀胱・直腸障害など、複数の後遺障害がある
- 既往症や体質的な素因(素因減額)が指摘されている
- 示談を急ぐよう連絡があり、内容を確認する時間が取りにくい
これらの場面では、感情的に対応するよりも、まず手元の資料で事実関係を確認し、何が争点かを整理することが役立ちます。保険会社の担当者が一律に不当な対応をするという前提に立つ必要はありませんが、提示された内容をそのまま受け入れる前に、項目ごとに確認しておく意味はあります。
段階別・手続前のチェックリスト
後から取り消しにくい判断や署名の前に、確認しておきたい事項を段階ごとに整理しました。すべてをご自身で判断する必要はなく、必要に応じて主治医や弁護士に確認しながら進めることができます。
症状固定の前・後遺障害診断書の作成前
- 症状固定の時期について、主治医の見解を確認したか
- 残っている症状(運動・感覚・排尿排便・疼痛など)を医師に伝えているか
- 後遺障害診断書に、自覚症状や検査結果が反映されているか
後遺障害の申請前・認定結果の受領後
- 画像・神経学的所見・診療記録など、必要な資料がそろっているか
- 事前認定と被害者請求のどちらで進めるかを検討したか
- 認定票の等級とその理由を確認したか
- 非該当・低い等級の場合、異議申立ての要否と追加資料を確認したか
示談書に署名する前
- 後遺障害慰謝料・逸失利益・将来介護費・改造費などの項目に漏れがないか
- 将来にわたる費用(介護・治療・買い替え)が考慮されているか
- 過失割合、既払金の控除、支払時期を確認したか
- 清算条項(今後、追加請求できなくなる条項)の内容を理解しているか
弁護士に相談するタイミング
脊髄損傷では、次のような時点で一度確認しておくと、その後に必要な資料や対応方針を整理しやすくなります。弁護士に相談することは、結果を保証するものではなく、資料を確認したうえで、争点と対応の選択肢を整理するためのものです。
- 事故直後や重症で入院中に、ご家族が資料整理を始めるとき
- 保険会社から治療費の打切りや症状固定の話が出たとき
- 後遺障害診断書を作成する前
- 後遺障害の等級認定を申請する前
- 認定結果に疑問があるとき
- 将来介護費・逸失利益・家屋改造費などが問題になっているとき
- 示談案を提示されたとき、そして示談書に署名する前
相談は、これらのどの段階からでも可能です。早い段階で一度整理しておくと、後の手続の見通しが立てやすくなりますが、「早く相談する」ことと「すぐに依頼する」ことは別です。相談で現状を整理したうえで、依頼の要否や時期を落ち着いて検討できます。相談する時期の考え方については、交通事故を弁護士に相談するタイミングを読むこともご参考ください。なお、ご自身やご家族の自動車保険に弁護士費用特約が付いている場合、相談料や依頼費用をその特約から支払える場合があります。対象範囲は保険商品や約款によって異なりますので、保険証券や約款の確認、保険会社への照会でご確認ください。
よくあるご質問(FAQ)
Q1.胸髄損傷と腰髄損傷は何が違いますか。
損傷を受けた脊髄の高さ(髄節)が異なります。一般に、損傷の高さが高いほど麻痺の及ぶ範囲は広くなる傾向があるとされますが、実際に現れる症状は損傷の部位や程度によって異なり、一律ではありません。診断名だけで後遺障害の等級が決まるわけではなく、麻痺の範囲・程度や介護の必要性などが確認されます。
Q2.腰椎骨折と腰髄損傷は同じですか。
同じではありません。「腰椎」は骨、「腰髄」は脊髄の一部を指します。成人では脊髄の下端がおおむね第1〜第2腰椎の高さで終わるとされ、腰椎の高さでは脊髄ではなく馬尾(神経根の束)が通っています。腰椎の骨折で損傷される神経は事案により異なりますので、画像と神経学的所見をもとに医師が評価します。
Q3.歩ける場合でも、後遺障害等級が認定されることはありますか。
歩行が可能かどうかだけで等級が決まるわけではありません。排尿・排便の障害、感覚障害、疼痛、体幹機能の低下など、外見からは分かりにくい症状が残ることもあります。これらが診断書や資料に適切に反映されているかを確認することが大切です。結論は個別の事情により異なります。
Q4.完全損傷か不全損傷かで、後遺障害等級は決まりますか。
完全損傷・不全損傷は医学的な分類で、そのまま後遺障害の等級を決めるものではありません。等級は、麻痺の範囲・程度、介護の必要性、日常生活への影響などを総合して判断されます。医学的な分類と、賠償上の等級とは別の枠組みである点にご注意ください。
Q5.MRIなどの画像があれば、後遺障害は認定されますか。
画像は重要な資料の一つですが、画像所見だけで等級が決まるわけではありません。事故直後からの症状、診療記録、神経学的所見、リハビリの経過、日常生活上の支障などを、あわせて確認していくことになります。画像に所見があれば必ず事故と結びつく、というものでもありません。
Q6.後遺障害慰謝料のほかに、何を請求できますか。
事案によって異なりますが、治療費・入院雑費・付添看護費・休業損害・傷害慰謝料のほか、逸失利益、将来介護費、将来の治療費、家屋や車両の改造費、装具・福祉用具の費用などが問題になり得ます。いずれも事故との因果関係・必要性・相当性の確認が必要で、当然に認められるわけではありません。
Q7.後遺障害の等級が非該当や想定より低い等級だった場合はどうすればよいですか。
まず認定票と理由を確認し、追加できる資料や医学的な意見があるかを検討します。そのうえで異議申立てを行うことがありますが、必ず結果が変わるわけではありません。自賠責保険・共済に関する紛争については紛争処理の仕組みもあります。対応の選択肢は、資料を確認したうえで整理することができます。
まとめ
- 「胸髄損傷」「腰髄損傷」といった診断名だけで、後遺障害の等級や賠償額が決まるわけではありません。
- 「腰髄」(脊髄)と「腰椎」(骨)は別のものです。腰椎の高さでは馬尾が通っており、損傷される神経は事案により異なります。
- 完全損傷・不全損傷は医学的な分類で、そのまま等級を決めるものではありません。回復の見通しは主治医が判断します。
- 症状固定は主治医の医学的判断が基本で、受傷後の期間だけで決まるものではなく、治療費の打切りとも別です。
- 後遺障害慰謝料のほか、逸失利益・将来介護費・家屋や車両の改造費などが問題になり得ますが、当然に認められるわけではありません。
- 等級は、麻痺の範囲・程度、介護の必要性、画像・神経学的所見、症状の経過などを総合して判断されます。資料の整理が重要です。
- 示談書に署名する前に、損害項目の漏れや将来分の扱い、清算条項の内容を確認しておく意味があります。
脊髄損傷の補償について相談を検討されている方へ
弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所では、交通事故のご相談について初回無料の法律相談(予約制)を承っています。診断書・画像・保険会社からの書面などを確認しながら、後遺障害の見通しや損害項目、今後の手続を整理いただけます。結果を保証するものではありませんが、次に確認すべき資料と対応の選択肢を具体的に整理できます。
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執筆者・監修者
藤井 貴之(ふじい たかゆき)
弁護士法人ひょうご あわじみらい法律会計事務所 代表弁護士・公認会計士
兵庫県弁護士会所属・日本公認会計士協会兵庫会所属
2012年(平成24年)司法試験合格、2013年弁護士登録。2020年(令和2年)公認会計士試験合格。兵庫県・山口県・東京都での実務経験を経て、2023年に淡路島(南あわじ市)で事務所を開設。交通事故をはじめ、相続・債務整理・離婚・労働問題などの個人のご相談から、企業法務・事業承継まで幅広く対応しています。
参考資料
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法施行令」(後遺障害等級の別表。2026年7月確認)
- e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法」(被害者請求など。2026年7月確認)
- 国土交通省「自賠責保険・共済ポータルサイト」(2026年7月確認)
- 損害保険料率算出機構「当機構で行う損害調査」(等級認定の仕組み。2026年7月確認)
- 日本整形外科学会「脊髄損傷」(2026年7月確認)
- 厚生労働省「障害等級表」(労災保険の障害等級。2026年7月確認)

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