営業損害の主張・立証方法⑵ ~ 変動費・固定費、損益分岐点、固変分解について
企業法務財務・会計営業損害の主張立証方法⑵ ~ 変動費・固定費、損益分岐点、固変分解について
4 変動費・固定費とは
固変分解とは、費用を変動費と固定費に分解することをいいます。
変動費とは、営業量の増減に応じて、総額において比例的に増減する原価をいい、売上高に連動して増減する費用のことをいいます。
典型的な変動費には、原材料費、外注加工費、販売手数料(売上高に連動するロイヤリティ)、商品発送のための燃料費・配送委託費などがあります。
固定費とは、営業量の増減に応じて、総額では変化しない原価をいい、売上が増加しても減少しても変化しない費用のことをいいます。
典型的な固定費には、減価償却費・賃借料などのほか人件費などの多くも固定費であることが多いです。
5 損益分岐点
売上高から変動費を控除した限界利益は、売上高が増加していけば比例的に増加していくことになります。
一方で、固定費は売上高の増減にかかわらず一定に発生する費用ですので、限界利益が固定費よりも小さい段階では、その事業は赤字ということになり、大きければその事業は黒字ということになります。
そして、限界利益と固定費が同じ金額になる営業量を計算することができますが、これを損益分岐点といいます。
損益分岐点とは、利益が0になる状態のことであり、利益0での売上高・固定費を知ることによって、最低限必要な売上高やある一定の売上高の元で利益を出すために必要なコストダウンの金額を予想することができます。
損益分岐点の分析は、売上高目標を立てる場面だけでなく、企業全体の収益構造を変更しようとするとき、プロダクトミックス戦略を決定するとき(企業のラインナップの中でどの製品をどのような割合で販売することを目標にするか決定すること)などの意思決定に利用されています。
6 固変分解とは
固変分解とは、費用を変動費と固定費に分解することをいいます。
変動費と固定費という費用の区別をした上での原価計算(直接原価計算)を用いた直接原価計算の損益計算書は、外部公表用の損益計算書として企業会計原則等で認められていないですが、その理由としては、固変分解の妥当性を検証することが難しいことがあり、実務上も固変分解には困難を伴うことも多いです。
固変分解にはいくつかの方法がありますが、まずは、①工学的研究に基づく方法(Industrial Engineering Method)と、②過去の実績に基づく方法に分類されます。
①工学的研究に基づく方法(IE法)は、材料の所要量や各従業員の業務内容を検証することによって固変分解する方法で、過去の実績・データが存在しない場合でも最適な状況における理論値としての規範的な数値が得られることがメリットですが、一般にかなりのコストがかかる点がデメリットとされています。
したがって、営業損害のための固変分解の方法としては、有効な分析手法とはなり得ない場合が多いと考えられます。
②過去の実績等のデータに基づく方法には、勘定科目精査法、高低点法、スキャッター・チャート法(散布図法)、最小二乗法などの方法があります。
②過去の実績等のデータに基づく方法は、過去のデータ・実績値などから過去の原価を分析することで、営業量の変動が原価発生金額にどのような影響を与えているのかを推定して、費用を固定費と変動費に区別する方法になります。
このうち、裁判例において原則的方法として採用されているのは、勘定科目精査法です。
一般的には、変動費には、原材料費、外注加工費、販売手数料(売上高に連動するロイヤリティ)、商品発送のための燃料費・配送委託費などが該当し、固定費には、減価償却費、賃借料などが該当します。
ただし、同じ勘定科目であっても、変動費・固定費の分類は、業種によって異なるし、同じ業種であっても各企業の状況に応じて異なります。さらに、同じ勘定科目に計上されている費用であっても、内訳となる費用によっては変動費としての性格を有するものと固定費としての性格を有するものに分類されることもあります。
そもそも、固定費についても、売上高の大幅な増加や事業規模の拡大の局面には増加するし、逆の局面では減少しますので、変動費と固定費の区別は相対的なものに過ぎません。
なお、営業損害の主張・立証方法については、以下もご参照ください。
営業損害の主張・立証方法⑴ ~ 営業損害とは
営業損害の主張・立証方法⑵ ~ 変動費・固定費、損益分岐点、固変分解について
営業損害の主張・立証方法⑶ ~ 請求書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑷ ~ 回答書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑸ ~ 訴状段階・答弁書段階について