営業損害の主張・立証方法⑸ ~ 訴状段階・答弁書段階
企業法務財務・会計営業損害の主張立証方法⑸ ~ 訴状段階・答弁書段階
9 訴状段階
訴状の作成にあたっては、事案に応じて、売上高ベース、売上総利益率(粗利益率)ベース、限界利益ベースなどで損害賠償請求金額を算出し、請求することになります。
内容証明郵便での請求書送付の段階でも述べたのと同じで、さまざまに考えられるところ、卸売業・小売業では、売上総利益ベースでの営業損害の請求(卸売業・小売業の場合、販売した商品の仕入原価が売上原価になるため、明らかな変動費である売上原価を控除した売上総利益ベースでの損害算定を行うことに親和性があります。)が考えられます。
なお、製造業では売上原価に固定費と変動費がともに含まれるため、この考え方を直ちに適用することはできません。
売上総利益ベースでの請求では、原則として直近の損益計算書による立証が考えられますが、売上高・利益率に季節性の変動等が生じる業種等である場合、月次の損益計算書等による立証を検討する必要もあります。
訴状の段階で、限界利益ベースでの損害算定を行う場合、固変分解に関する主張・立証を行う必要があります。
10 答弁書段階
被告側としては、売上高、売上総利益、限界利益のいずれの請求のなのかを的確に把握し、賠償請求者側の請求ベースが何に基づいているのかを的確に把握するとともに、固定費を損害として請求していないかどうかを検討します。
併せて、損害算定期間、売上高の減少の立証についても検討べきことは、回答書で述べたのと同じです。
提出された会計資料等の相手方主張の根拠には信憑性が認められているかどうかを検討します。
その際には、税務署受領印がある納税申告書をスタートとして、法人税の申告書と損益計算書の内容、損益計算書の内容と月次損益計算書、セグメント損益計算書等の原告提出の資料の整合性があるかどうかを確認します。
また、法人税の申告書の法人事業概況説明書には、月別の売上、仕入、外注費、人件費などの記載欄があるため、月次損益計算書との整合性を確認します。
このほか、各期・各月の粗利率(売上総利益率)、各費用の対売上高比率等を分析し、異常値がないかを検証します。
また、各費用の対売上高比率、増減分析等を行って、固定費・変動費の当たりをつけることが考えられます。
以上のような分析を実施した上で、疑わしい事項を指摘した上で、必要な資料の開示を求め、資料の開示には、裁判官の理解を得ることが重要になるため、できる限り開示を必要とする合理的な理由に基づいて指摘する必要があります。
認否にあたっては、決算書の数字は必ずしも正しいとは限らないところ、特に決算書の数値が改ざんされているおそれもあるため、一度事実を認めてしまうと自白が成立してしまう可能性があるため、留意する必要があります。
11 Excelによるデータ加工・公認会計士による意見書
会計資料は可能な限り、Excelデータによる開示を求め、受領したExcelデータを加工して、売上高比率等を算出することで固変分解したり、増減分析を行うことで異常値を見つけ出すことが可能になります。
また、会計資料が出揃った段階で、限界利益額等を示した公認会計士の意見書を作成し、証拠として提出することが考えられる。
なお、営業損害の主張・立証方法については、以下もご参照ください。
営業損害の主張・立証方法⑴ ~ 営業損害とは
営業損害の主張・立証方法⑵ ~ 変動費・固定費、損益分岐点、固変分解について
営業損害の主張・立証方法⑶ ~ 請求書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑷ ~ 回答書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑸ ~ 訴状段階・答弁書段階について