業務委託契約書について
労働法務・労働問題企業法務Contents
業務委託契約書
はじめに
業務委託契約は、企業の行う業務の遂行を外部の第三者に委託する契約であり、経理、集金、警備、清掃、発送、データ登録、顧客獲得及び商品管理などの幅広い分野で用いられる契約形態です。
その内容によって法的性質も異なることから、紛争になりやすい契約類型でもあり、仮に紛争になった場合には解決までに時間を要することになることも多いです。
したがって、契約書の審査や作成にあたっては、注意を要する契約類型ではあります。
そこで、本コラムでは、業務委託契約書について、淡路島の弁護士が解説いたします。
1 業務委託契約の法的性質(請負契約又は(準)委任契約)
業務委託契約においては、まず、委業務委託契約の法的性質を区別することがもっとも重要になります。
業務委託契約の法的性質としては、仕事の完成(結果)を重視し、仕事の完成に責任を負う請負契約の性質を有する場合と、業務の遂行を重視し、仕事の完成を観念しない(準)委任契約の性質を有する場合、あるいは、請負・(準)委任の両方の性質を有する場合があります。
ここでもっとも重要になるのは、請負契約では仕事の完成がなければ報酬請求ができないのに対し、(準)委任契約では通常、業務の遂行に従って報酬請求ができることです。
例えば、機械の製作を依頼する業務委託契約の場合、通常、仕事(機械)の完成がなければ報酬請求ができない請負契約の性質を有することが通常ですが、裁判例では設計仕様等の確定に至る段階は準委任契約であり、設計仕様確定以後の段階は請負契約の性質を有すると判断したものがあります(なお、この裁判例においては、(準)委任契約という性質から判断して、製作者においては欠陥のない商品を製作供給する義務までを負うものではなく、できる限り目的に沿った製品を試作供給する義務を負うものであると判示されました(東京高裁昭和57年11月29日判決・判タ489号62頁)。)。
このように、業務委託契約の法的性質が請負契約か、(準)委任契約かは、紛争が生じた際における契約書の解釈において極めて重要になります。
なお、契約書において、「本契約の法的性質は、請負(又は(準)委任)とする」などと定めることは可能ですが、それのみにより法的性質を決定できるものではなく、契約内容として、業務委託契約の内容が実質的に仕事の完成(結果)を重視しているものかどうかが重要になります。
2 委託業務の内容について
業務委託契約書においては、委託業務の内容を具体的に定めることも重要になります。
業務委託契約書における業務の内容は、前述した契約の法的性質の判断材料になるとともに、契約不適合責任の有無の判断基準、債務不履行の判断基準にもなります。
したがって、いかなる業務を委託したのかが不明確であると業務委託契約の法的性質を判断することができず、予期しない義務を負うことになったり、契約不適合責任の有無について契約当事者間で意見が対立し、紛争に発展するおそれがあります。
以上より、委託する業務については、できる限り詳細に定めることが望ましいです。
「委託業務は別紙のとおり」などとして、業務の詳細は別紙で添付することもよく行われています。
製品やシステム開発に関する業務委託の場合、契約締結時点では開発する製品・システムの具体的な仕様までは決まっていないことがありますが、このような場合には、その時点で記載が可能な内容を可能な限り詳細に記載し、契約締結後に具体的な仕様を協議・決定する方法をとらざるを得ないと考えられます。
そうした場合、最終的に決定した仕様の内容について、仕様書を作成し、権限のある当事者双方にて署名・押印して確認することが、契約内容を明確化し。紛争を回避するために重要です。
裁判例では、契約締結前に受託者が提出した提案書を契約書と一体をなすものとして、受託者に提案書の内容に従ったシステムを完成させるべき義務がある旨判示したものがあります(東京地裁平成16年3月10日判決・判タ1211号129頁)。
3 委託料について
委託料については、月額固定の委託料のほか、時給制や成功報酬制など、様々な取り決めがなされることが想定されます。
前述した業務委託契約書の性質に関連して、請負契約における報酬は、仕事の完成がなければ請求することができません。
既に行った業務の結果のうち、可分な部分によって委託者が利益を受けるときは、受託者は利益の割合に応じた報酬を請求することが認められています。
したがって、割合的報酬を請求しやすくするためには、対価をできる限り細分化して定めておくことが重要です。
また、業務委託の過程で知的財産権が生じる場合、委託者・受託者のいずれに帰属するのかについて定めるとともに、委託者に知的財産権を帰属させる場合、業務委託料に知的財産権移転の対価が含まれていることを契約書上で明記するなど、知的財産権の処理に関して定めておくことが必要になります。
さらに、業務委託契約書では費用負担に関する条項が定められていない場合もあるが、この場合、委託者が費用を負担することになります。
そこで、受託者が費用負担する条項や、委託者が費用を負担する条件として事前に書面による承認を必要とする条項を定めることが考えられます。
4 委託者側に有利な条項
委託者側としては、業務委託契約書において報告義務条項を設け、受託者の業務の状況を把握できるように、できる限り頻繁に報告を受けることができる体制を整えておくことが考えられます。
また、立ち入り検査ができる条項を定めることも考えられます。
受託者の業務遂行能力に期待している場合は、第三者に対する再委託を禁止する条項を定めておくことが考えられます。
そのほか、受託者が身勝手な行為に及んだ場合の損害賠償請求に実効性を持たせるために、保証金を受領する条項や、企業秘密・ノウハウ等を用いて競業行為が行われないよう、競業避止義務条項を定めることも考えられます。
5 受託者側に有利な条項について
受託者側としては、上記の報告義務条項や立ち入り検査条項、再委託禁止条項を除外したり、なるべく軽減することが考えられます。
また、受託者側の債務不履行が生じてしまった場合の損害賠償請求について、故意・重過失に限る旨の条項(軽過失を除外する条項)、損害賠償の範囲を「通常損害」に限定する条項、損害賠償額の上限を定める条項等を設けることが考えられます。
6 業務委託契約を締結すれば労働関係法規の適用を免れることができるか
会社と個人で業務委託契約を締結する場合、受託者が労働者に該当するとして、労働関係法規の適用を受け、時間外・休日・深夜労働に関する割増賃金や、契約の解消に関して解雇権濫用の法理が適用されることになるなど、特に委託者側(使用者側)にとって望まない法効果が生じてしまうことがあります。
労働者に該当するかどうかは、契約書の名称によって判断されるわけでなく、客観的な実態に即して判断され、業務遂行上の指揮監督関係があるかどうか、すなわち、受託者における裁量がどの程度認められているかどうかが重要な判断要素になります。
そのほか、業務場所・業務時間が指定・管理されているかどうか、報酬に固定給部分があるかどうか、時間単価に業務時間を乗じるなどの方法で報酬が算定されているかどうか、他社の業務に従事することが契約上制約されているかどうかなど、諸般の事情を考慮して判断されることになります。
7 損害賠償に関する条項について
業務委託契約書に損害賠償条項が存在しない場合、契約違反に関する損害賠償の対象は、民法に従った通常損害(通常生ずべき損害)になります。
通常損害(通常生ずべき損害)とは、その種の契約違反行為があれば通常発生する損害という意味であり、相当因果関係の範囲内の損害です。
一方で、特別の事情から生じた損害は、契約違反者においてその特別事情を予見すべきであったものが賠償の対象となります。
業務委託契約書で定めることにより、契約当事者の損害賠償責任は、加重したり、軽減したりすることができます。
責任を軽減する条項を、責任制限条項といいますが、責任制限の方法としては、①損害賠償額を限定する方法、②賠償の対象となる損害項目を限定する方法、③損害賠償を請求できる期間を制限する方法、④損害賠償責任が生じる場合を故意又は重過失がある場合に制限する(軽過失を除外する)方法があります。
また、責任を加重する条項としては、①合理的な範囲の弁護士費用・調査費用・専門家の鑑定費用・法的対応費用等を賠償対象に含める方法、②違約した際の賠償額(違約罰)をあらかじめ定める方法、③間接損害等を含むことを明記する方法などがあります。
8 その他契約書作成における留意点について
契約書の作成・検討には、当事者の意図が契約条項に明確かつ正確に反映されているか、法的有効性や法的効力に問題はないか、契約違反が生じた場合に適切な解決方法が規定されているかなど、多様な観点で検討する必要があるため、契約書の作成・検討にあたっては、弁護士に相談することをおすすめいたします。
契約書審査作成の弁護士費用
・対応時間1時間当たり2万2000円~(消費税込)
※定型的な契約書の審査で2時間からが目安になります。
※定型的な契約書の作成で4時間からが目安になります。