営業損害の主張・立証方法⑴ ~ 営業損害とは
企業法務財務・会計営業損害の主張立証方法⑴ ~ 営業損害とは
1 営業損害
営業損害とは、相手方の責めに帰すべき事由により事業者が営業停止等となった場合に、営業停止等にならなければ得られたはずであった逸失利益(消極損害)をいいます。
営業損害は、企業が全社的に営業停止となった場合のほか、企業の1部門が停止した場合、1つの契約が不当に破棄された場合などでも問題となります。
請求原因としては、債務不履行のほか、不法行為が考えられますが、不法行為に関しては、交通事故による事業所得者の休業損害の問題等も含まれます。
実務上、営業損害が問題となる紛争は決して少なくないものの、法と会計の錯綜する分野として、未だ体系的な解説がなされた書籍などは限られているのが現状です。
2 営業損害 = 限界利益説とは
損害とは、債務不履行又は不法行為がなかったとしたらあるべき利益状態と実際に債務不履行又は不法行為がなされた現在の利益状態との差額をいいます(差額説)。
一方で、損益相殺とは、債務不履行又は不法行為によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受けた場合、損害と利益との間に相互補完性がある限り、その利益の額を賠償されるべき損害から控除することをいいます。
営業損害においては、債務不履行又は不法行為によって、売上の減少という損害が生じる半面で、同時に変動費が生じることを免れることで、利益が生じる場面が多々あります。
したがって、差額説及び損益相殺の考え方から、営業損害とは、原則として、減少する売上高から負担を免れる費用である変動費を控除した限界利益であると考えられます(限界利益説)。
具体的には、債務不履行又は不法行為による影響は、理論上、以下のとおりですが、原則として⑵収益の減少から⑸増加する費用を控除したものが限界利益として営業損害の賠償対象になります。
債務不履行又は不法行為による影響 | ||
収益に対する影響 |
⑴収益の増加 |
通常生じないが、売上高が減少した事業、製品等の代替需要として売上高が増加した場合は、(厳密には増加した限界利益分が)損益相殺の対象になる。 |
⑵収益の減少 | 生じた売上高の減少等は、損賠賠償の対象になる。 | |
⑶変化しない収益 | 影響が生じていない収益・固定収益等であり、賠償上考慮しない。 | |
費用に対する影響 | ⑷減少する費用(変動費) | 損益相殺の対象になる。 |
⑸増加する費用 | 損益相殺の対象になる。 | |
⑹変化しない費用(固定費) | 固定費として賠償上考慮しない |
3 限界利益・直接原価計算とは
限界利益とは、売上高から変動費を控除したもので、直接原価計算に基づく損益計算書に出現する概念です。
通常の損益計算書は、全部原価計算により作成されており、損益計算書においては、限界利益は出現しません。
直接原価計算の損益計算書は、利益管理や原価管理の観点での有用性が認められていますが、外部公表用の損益計算書を作成するための原価計算方法としては認められていません。
なぜならば、直接原価計算においては、費用を変動費と固定費をに分解する固変分解が必要不可欠になるところ、固定費と変動費の区分が実務上困難であり、区分次第で利益操作に利用されるおそれがあるからです。
変動費と固定費の区分(分類・分解)は、固変分解(原価予測)といわわれますが、営業損害の請求においては賠償対象が売上高から変動費を控除した限界利益になることから、通常、この固変分解に関する主張・立証がもっとも重要な争点となります。
なお、営業損害の主張・立証方法については、以下もご参照ください。
営業損害の主張・立証方法⑴ ~ 営業損害とは
営業損害の主張・立証方法⑵ ~ 変動費・固定費、損益分岐点、固変分解について
営業損害の主張・立証方法⑶ ~ 請求書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑷ ~ 回答書の作成・送付について
営業損害の主張・立証方法⑸ ~ 訴状段階・答弁書段階について