種苗法について
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種苗法
はじめに
種苗法は、植物の新品種を保護する法律で、新たな品種を開発し種苗法で登録された品種(登録品種)に育成者権(知的財産権)を付与し・保護しています。
本コラムでは、植物の新品種を保護している種苗法について、淡路島の弁護士が解説いたします。
種苗法の目的
種苗法は、「品種登録制度」と「指定種苗制度」により、農林水産業の発展に寄与することを目的としています。
新品種の育成には専門的な知識・技術とともに、長期にわたる労力・多額の費用が必要となりますが、いったん育成された品種については、第三者はこれを容易に増殖させることができるため、新品種の育成を積極的に奨励するためには、新品種の育成者の権利を適切に保護する必要があります。
したがって、新品種を育成するインセンティブを確保するため、種苗法は、「品種登録制度」によって育成者権を付与し、第三者による品種の利用を禁止しています。
また、種苗は外観からのみでは品種の識別や品質の判定が困難であるため、偽物が出回るなどの事態を避け、種苗の適切な流通を図り、種苗の需要者である生産者を保護するため、種苗業者に適切な表示等を義務付ける必要があります。
このため、種苗法は、「指定種苗制度」により指定種苗の表示等に関する規制などを定めることで、種苗の流通の適正化を図っています。
品種登録制度
1 「品種登録制度」の概要
「品種登録制度」は、一定の要件を満たす植物の新品種を農林水産省に登録することで、育成した者に「育成者権」を付与し、知的財産として保護する制度です。
品種登録が行われると、品種の名称、植物体の特性、登録者の氏名及び住所、存続期間などが品種登録簿に記載され、同時に官報で公示されます。
品種登録簿に記載された事項は、農林水産省の品種登録データベースで検索できます。
2 育成者権
育成者権は、品種登録により発生します。
育成者権者は、登録品種の種苗、収穫物及び一定の加工品を独占的に「利用」することができます。
「利用」とは、種苗の生産、調整、譲渡(の申出)、輸出、輸入及びこれらを目的とする保管をいいます。
育成者権者以外の者は、育成者権者の許諾を得なければ登録品種を「利用」することはできません。
したがって、登録品種の「増殖」を行う場合、育成者権者の許諾が必要になります。
育成者権者は、他人に登録品種の種苗等の利用を許諾(利用権の設定)し、利用料を得ることができます。
また、育成者権者は、育成者権を売却することもできます。
育成者権の存続期間は、原則として登録日から25年です。もっとも、果樹、林木、鑑賞樹などの本木性植物では、30年です。
3 品種登録の流れ
➀ 出願・出願公表・仮保護
育成者などが農林水産大臣に品種登録の出願をします。
出願後、願書に不備がないことが確認されると、出願した品種が出願中であることが公示されます。
出願から品種登録までには、2~3年の審査期間がかかるため、出願公表から品種登録までの期間、仮保護の対象となり、品種登録後に、仮保護期間中に育成者権を侵害した者に対する利用料相当額の補償請求を行うことができます。
② 審査
出願に対し、品種登録の要件が満たされているか植物の特性審査等が行われます。
特性審査には、栽培試験・現地調査がありますが、審査手数料の納付が必要になります。
栽培試験は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構種苗管理センターにおいて、出願品種と対象品種等(出願品種と最も類似する品種)を栽培し、比較しながら品種の特性を調査します。
現地調査は、農林水産省職員又は種苗管理センター職員が出願者が栽培した出願品種と対象品種等を比較しながら品種の特性を調査します。
③ 審査特性の通知・登録
品種登録の要件を満たすと判断された場合、品種登録に先立ち、出願者に対し、登録簿に記載される品種の特性を記録した「特性表」が通知されます。
出願者は通知された「特性表」に異議がある場合、訂正を求めることができます。
審査の結果、登録要件を満たすと判断された出願については、品種登録がなされます。
登録にあたっては、登録料の納付が必要になります。
なお、品種登録の要件としては、区別性、均一性、安定性、未譲渡性、名称の適切性を満たす必要があります。
4 登録品種への表示義務
登録品種の種苗を譲渡・販売、そのための展示・広告を行う際、登録品種である旨の表示が必要で、海外持出制限、栽培地域の制限がある場合、併せてその旨を表示する必要があります。
具体的には、種苗の譲渡や販売の際、種苗の取引毎に必要な表示事項を種苗又は種苗の包装に表示します。
必要な表示事項を記載した証票を種苗に添付することでも表示したものと認められます。
譲渡のための展示又は広告では、種苗のカタログやカタログを兼ねた注文票など、インターネットサイト販売時などにも表示します。
5 権利侵害への対応
➀ 民事上の請求
育成者権の許諾を得ることなく、登録品種を利用すると、育成者権の侵害になり、民事上の差止請求、損害賠償請求、信用回復の措置等の請求の対象となります。
もっとも、育成者権者が権利行使を行うためには、侵害の立証を行う必要になるところ、侵害立証のためには、侵害が疑われる種苗と品種登録時点の植物体との比較栽培が必要になるという判決が下されるなど、育成者権の権利行使の困難さが顕在化していました。
そこで、令和2年(2020年)種苗法改正により、特性表と侵害が疑われる種苗とを比較することにより育成者権が及ぶ品種であることを推定できる「推定規定」が新設され、侵害立証の容易化が図られました。
また、育成者権者や侵害を疑われている者などが農林水産大臣に対し、特性表と侵害疑義品種を比較して判断を求めることもできるようになりました(「判定制度」)。
「判定」は裁判での有力な証拠となり、当事者間での示談交渉等でも活用されることが期待されています。
ただし、「判定」の結果には法的拘束力はありません。
② 刑事罰
故意によって育成者権を侵害した場合、個人には10年以上の懲役又は1000万円以下の罰金、法人には3億円以下の罰金が処せられることになります。
③ 品種保護活用相談窓口
育成者の保護・活用が円滑に行われるため、種苗管理センターの「品種保護活用相談窓口」は権利侵害の証明等に対する支援活動を行っています。
具体的には、育成者権に関する相談・情報提供、育成者権侵害に関する品種類似性試験の実施、育成者権侵害状況記録の作成、証拠品保管のための種苗等の寄託などを行っています。