自己破産について
借金問題(債務整理)自己破産
はじめに
自己破産は、借金の全てが0になるという非常に強力な効果を持つ制度です。
一方で、自己破産すると戸籍や住民票に記載される、パスポートが取得できなくなる、全ての財産が没収される、一生ローンやクレジットを利用することができなくなるなどの虚偽の情報を信じ、自己破産することに二の足を踏んでいる方も少なくありません。
後述するとおり、自己破産することでデメリットが生じることは確かですが、社会生活が立ち行かなくなるほどに大きな支障をきたすというものになることは少ないです。
本コラムでは、自己破産について、淡路島の弁護士が解説いたします。
1 自己破産の手続選択
自己破産のメリット
自己破産のメリットは、➀非免責債権を除く借金を0にすることができること、②訴訟・強制執行は中断すること、③最大で99万円までの財産は手放さないでいることができること、④自己破産開始決定後に取得した財産は新得財産として自由に処分できることです。
自己破産のデメリット
自己破産のデメリットは、➀ギャンブルや賭博、浪費などによる借金では利用できないおそれがあること、②自宅や財産的価値の高い資産は全て処分対象になること、③信用情報機関(CIC、JICC、全国銀行協会)へブラックリスト登録されてしまうこと、④氏名・住所などの個人情報が「官報」に載ってしまうこと、⑤欠格事由による職業制限がなく、警備員・保険外交員などの職業でも仕事に支障を生じさせずに手続できることです。
自己破産を選択する場合
自己破産は上記デメリットに記載した自己破産することによる障害がない限り、借金を0にするという非常に強力な効果を持つ手続です。
したがって、任意整理による債務整理が困難な場合、まず第一に検討することになる手続であるといえます。
2 自己破産の種類
「同時廃止事件」と「破産管財事件」(異時廃止事件)
自己破産には、「同時廃止事件」と「破産管財事件」(異時廃止事件)の2種類があります。
「同時廃止事件」で処理することになるか、「破産管財事件」で処理することになるかは、破産者からの申立てを審査した裁判所が判断することが、「同時廃止事件」では裁判所費用(予納金)は1万5000円程度であるのに対し、「破産管財事件」では、最低20万円以上になり、破産管財人よる調査が行われることになるなど、破産者にとっては「同時廃止」で処理してもらうことが有利なことが多いです。
「同時廃止事件」と「破産管財事件」の違い(神戸地方裁判所の運用準拠)
「同時廃止事件」 | 「破産管財事件」 | |
裁判所費用 (予納金) |
1万5000円程度 ・ 官報公告費用 ・ 郵券料金 |
20万円以上 |
自己破産しても処分されない財産 (自由財産) |
同時廃止事件と管財事件の振り分け基準における「同時廃止事件」の基準内の財産(後述するとおり。) |
合計99万円までの以下の資産 |
破産管財人の選任の有無 | 選任されない。 | 選任される。 |
債権者集会の開催の有無 | 開催されない。 | 開催される。 |
手続の期間 | 自己破産申立から免責許可決定まで2~3か月程度が目安 (*)自己破産申立て準備には1~3か月程度を要します。 |
自己破産申立から免責許可決定まで3か月以上が必要になる。 (*)自己破産申立て準備には1~3か月程度を要します。 |
免責許可決定について | 原則として免責される。 |
免責不許可事由がある場合、免責観察型の破産管財事件になることがあります。 |
「同時廃止事件」と「破産管財事件」の振り分け基準(神戸地方裁判所の運用準拠)
神戸地方裁判所における同時廃止事件と破産管財事件の振り分け基準によれば、「同時廃止事件」として処理されるための条件は次の「1」ないし「3」とおりです。
1 現金及び流動性預金(普通預金・通常貯金)が合わせて50万円未満であること
まず、現金及び流動性預金(普通預金・通常貯金)が合わせて50万円以上のときは、「同時廃止事件」にはならず、「破産管財事件」として処理されます。
2 個別財産が項目ごと合わせて20万円未満であること
次に、現金及び流動性預金(普通預金・通常貯金)が合わせて50万円未満のときでも、以下の個別の財産が一つでも項目ごとに20万円以上になるもの(過払金は30万円以上になるもの)があれば、「同時廃止事件」にはならず、「破産管財事件」として処理されます。
① 定期性預貯金(定期預金・定期積金)
② 保険・共済の解約返戻金(見込額)
③ 退職金の支給見込額の8分の1
(退職済み又は退職予定時期が1年未満の場合、4分の1)
④ 賃借料保証料
⑤ 過払金(額面額)
⑥ 貸付金(回収見込額)
⑦ 求償金(回収見込額)
⑧ 売掛金(回収見込額)定期性預貯金
⑨ 車両(製造から7年経過していないもの
⑩ 不動産(評価額)
(抵当権の残存被担保債権額が固定資産評価額の1.5倍を超える場合、無価値)
⑪ 動産(評価額)
⑫ 積立金(評価額)
⑬ その他財産権(評価額)
⑭ 売掛金(回収見込額)定期性預貯金
3 「1」及び「2」の財産の積算総額が100万円未満であること
現金及び流動性預金を含む全ての財産を積算した総額が100万円以上のときは、「同時廃止事件」にはならず、「破産管財事件」として処理されます。
4 同時廃止事件として取り扱うことができない類型の事件でないこと
以下に該当する事件は、類型として「同時廃止事件」にはならず、「破産管財事件」として処理されます。
➀ 法人代表者型
申立人が現在又は過去に法人の代表であったことにより、個人の財産と法人の財産との混同が生じていないかなど、破産管財人の調査を要すると判断される場合をいいます。
➁ 個人事業者型
申立人が現在又は過去に個人事業者であったことにより、その実態を把握し、財産状況を解明するため、破産管財人の調査を要すると判断される場合をいいます。
➂ 財産調査型
破産に至る経緯や資産の内容に疑義があり、破産管財人の調査により疑問点を解明しなければならないと判断される場合をいいます。
➃ 否認調査型
偏波行為や財産減少行為の存在がうかがわれ、否認権の行使が可能か否かを破産管財人の調査を要すると判断される場合をいいます。
➄ 財産調査型
免責不許可事由があり、裁量免責を受けるためには、破産管財人の調査などを要すると判断される場合をいいます。
3 自己破産の免責不許可事由・非免責債権
免責不許可事由とは
免責不許可事由とは、借金を免責にできない事由のことをいいます。
裁判所は免責不許可事由に該当しない場合、免責許可の決定をします。
また、免責不許可事由のいずれかに該当する場合であっても、裁判所は破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責を許可することが可能であり、これを裁量免責といいます。
裁判所は、「破産管財事件」において選任した破産管財人に対し、免責不許可事由の有無・裁量免責の判断にあたって考慮すべき事情についての調査をさせ、その結果を書面で報告させます。
具体的な免責不許可事由
具体的な免責不許可事由の内容は以下のとおりです。
➀ 財産を不当に減少させる行為
➁ 不当に債務を負担する行為
➂ 特定の債権者に対する偏波弁済行為
➃ 浪費又は賭博、ギャンブルなどにより財産を減少させ、過大な債務を負担する行為
➄ 取引の相手方をだまして信用取引をする行為
⑥ 業務及び財産の状況に関する帳簿など隠匿、偽造又は変造する行為
⑦ 虚偽の債権者名簿を提出する行為
⑧ 破産手続における裁判所の調査で、説明を拒み、又は虚偽の説明をすること
⑨ 不正の手段により、破産管財人などの職務を妨害すること
⑩ 過去7年以内に自己破産をしていること
⑪ 破産手続に協力しないこと
非免責債権
免責の効果は、全ての債権に及ぶことが原則ですが、政策的な理由から以下の債権には及びません。
これを非免責債権といい、免責許可が下りても免除されることはありません。
➀ 租税などの請求権
➁ 破産者が他人を害する積極的な意欲(悪意)をもってした不法行為に基づく損害賠償請求権
➂ 破産者が故意又は重大な過失によって他人の生命・身体を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権
➃ 婚姻費用、養育費、親族の扶養義務などの請求権
➄ 従業員の労働債権等
⑥ 破産者が知りながら債権者名簿から除外した債権
⑦ 罰金などの請求権
4 申立ての必要書類
自己破産申立て(同時廃止事件)の必要書類は、次のとおりです。
申立書・一覧表・報告書
➀ 破産・免責申立書
➁ 債権者一覧表
➂ 公租公課一覧表
➃ 財産目録
➄ 家計収支表
⑥ 報告書
⑦ 債権調査票・取引履歴及び引き直し計算書
添付資料
➀ 住民票
➁ 所得証明書、源泉徴収票、給与明細
➂ 生活保護受給証明書、年金受給証明書・年金額通知書
➃ 元帳・確定申告書、決算書(貸借対照表・損益計算書)
➄ 訴状、判決書、支払督促、和解調書、調停調書、差押え決定書、滞納処分差押通知書等
⑥ 預貯金通帳・金融機関の取引明細書
⑦ 保険証券、解約返戻金見込額がわかる資料
⑧ 土地・建物の賃貸借契約書・売買契約書
⑨ 土地全部事項証明書、固定資産評価証明書、抵当権被担保債権の残債務額がわかる資料
⑩ 自動車検査証、登録事項証明書、査定書
⑪ 過払金計算書
⑫ 遺産分割協議書
自己破産申立ての弁護士費用
(着手金)
※管財事件の場合、33万円~(消費税込)
※着手金はご事情によって月額5.5万円からの分割払にも対応いたします。