遺言無効の主張方法について
遺言 相続Contents
遺言無効の主張方法
はじめに
遺言は本来、遺言者による財産の自由な処分を認める制度ですが、一定の場合、遺言が無効になることがあります。
被相続人がした遺言の効力に争いがある場合、遺言の無効を主張する者は、遺言が無効であることの確認を求め、遺言無効確認請求訴訟を提起することになります。
本コラムでは、遺言無効の主張について、淡路島の弁護士が解説いたします。
遺産の全てを他の相続人に相続させる内容の遺言があるが内容がおかしいため争いたい、遺言書の筆跡が明らかに本人のものではない、遺言無効確認請求訴訟の訴状が届いたなどの場合、当事者だけで解決することは難しいものと考えられますので、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
遺言の有効性の調査
最初に、遺言の有効性の調査をどのように行うかについて、説明します。
遺言の有効性の調査には、➀医療記録、介護記録、介護認定記録の調査、②自筆証書遺言の方式違背の調査、③遺言時の状況(公証人・立会人)遺言当時の状況(同居者、身近な親族、担当医師など)の調査などがあります。
1 ➀医療記録、介護記録、介護認定記録の調査
医療記録の調査では、診療録・カルテ、看護記録、CT・MRI等の画像検査結果などを医療機関から取り寄せます。
介護記録の調査では、課題分析・介護サービス計画(ケアプラン)、介護記録(ケース記録)などを介護サービス事業者から取り寄せます。
介護認定記録の調査では、主治医意見書、要介護認定調査票、要介護認定結果通知書などを市区町村から取り寄せます。
2 ②自筆証書遺言の「自書」性・方式違背の有無の調査
自筆証書遺言では、遺言書の記載それ自体が、民法968条所定の方式を満たしている必要があります。
すなわち、自筆証書遺言の遺言者は、遺言書の全文、日付及び氏名を「自書」し、押印しなければなりません。
したがって、自筆証書遺言では、まずは、遺言者が必要事項を「自書」しているかなどの民法968条所定の方式を満たしているか確認することが重要になります。
遺言無効確認請求訴訟の争点
1 自筆証書遺言の「自書性」
前述のとおり、自筆証書遺言では、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を「自書」し、押印しなければなりません。
自筆証書遺言の「自書性」とは、遺言書が「自書」したかどうか、すなわち、遺言書が偽造されたものかどうかがという争点になります。
1 「自書」と認められる場合
そもそもどのような場合に「自書」と認められないかですが、遺言能力はあるものの、手が震える、握力が極端に弱く筆記用具が持てないなどの理由で自書する運動能力がない場合、自書能力がなく「自書」と認められない。
一方で、判例では、手が不自由で添え手をしてもらった場合でも、筆記を容易にするための単ある支えを借りただけであり、添え手をした他人の意思会介入した形跡のないことが筆跡の上で判定できる場合には、「自書」といえると判断されています(最判昭和62年10月8日)。
また、パソコン・ワープロやタイプライターを用いた遺言は、「自書」とはいえないが、カーボン紙形式の複写は、「自書」といえるとされています。
2 「自書」かどうかの判断基準
遺言書が「自書」されたものかどうか、すなわち、偽造されたものかどうかは、➀筆跡の同一性、②遺言者の自書能力の存否及びその程度、③遺言書それ自体の体裁等、④遺言内容それ自体の複雑性、遺言の動機・理由、遺言者と相続人との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等、⑤遺言書の保管状況・発見状況等を総合的に考慮して判断します。
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➀筆跡の同一性
➀筆跡の同一性は、遺言書と遺言者の日記、メモなどをの筆跡鑑定対象文書を対照し、検討します。
裁判実務上、筆跡鑑定は科学的に確立された手法であるとは言い切れないことから、これを重視して判断されることは少ないといえます。 -
②遺言者の自書能力及びその程度
②自書能力とは、遺言者が文字を知り、かつ、これを筆記する能力を有することをいいます。
例えば、裁判例においては、目の見えない者が他人の添え手による補助を受けた自筆証書遺言について、便箋4枚に概ね整った文字で22行にわたって整然と書かれている場合、遺言者の自書能力に照らして、添え手をした補助者の意思が介入したとして、自書性を否定しました。 -
③遺言書それ自体の体裁等
③遺言書それ自体の体裁等とは、遺言書に使用した用紙・筆記用具、文書形式、言葉遣い、作成時期と文書内容との整合性など、不自然な部分がないかを検討することをいいいます。 -
④遺言内容それ自体の複雑性、遺言の動機・理由、遺言者と相続人との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯等
遺言内容が複雑になるほどより高度の精神能力が求められるため、遺言を無効とする要因になります。
そのような遺言をする動機・理由が見当たらない、遺言者との人的関係・交際状況に照らして疑問がある、遺言に至るまでの経緯が余りに唐突であるなどの事情は、遺言を無効とする要因になります。 -
⑤遺言書の保管状況・発見状況等
⑤遺言書がどのように保管され、どのような経緯で誰が発見したかについて、不自然な点があることは、遺言を無効とする要因となります。
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2 遺言能力
遺言能力とは、遺言当時、遺言内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足りる能力をいいます。
民法では、15歳に達した者は、遺言をすることができると定めています。
1 遺言能力の判断基準
遺言能力の判断基準としては、一般に、➀遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度、②遺言内容それ自体の複雑性、③その他諸事情(遺言の動機・理由、作成経緯、遺言者と相続人、受遺者との人的関係・交際状況等)が挙げられます。
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- ➀遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
➀遺言者の精神上の障害については、ⅰ精神医学的観点及びⅱ行動観察的観点から検討します。
ⅰ精神医学的観点としては、精神医学的疾患は存在するか、精神医学的疾患は認知症か統合失調症かそのほかのものか、寛解があり得るものか、具体的症状は見当識障害か記憶障害かそのほかのものか、精神科学的疾患の重症度はどの程度のものかなどを検討します。
ⅱ行動観察的観点としては、遺言時又はその前後の症状、言動などを検討する。 - ②遺言内容それ自体の複雑性
②遺言内容それ自体の複雑性としては、遺言者の精神能力がさほど高くないにもかかわらず、遺言内容が複雑で理解困難なものであることは、遺言を無効とする要因になります。 - ③その他諸事情
③その他諸事情としては、そのような遺言をする動機・理由が見当たらない、遺言者との人的関係・交際状況に照らして疑問がある、遺言に至るまでの経緯が余りに唐突であるなどの事情は、遺言を無効とする要因になります。
- ➀遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
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2 遺言能力判断の留意点
遺言能力判断の留意点としては、➀長谷川式認知症スケールの点数、②要介護度、③成年被後見人であること、④公正証書遺言であること、⑤主治医の意見があることなどだけでは、遺言能力の有無を判断することはできないことです。
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- ➀長谷川式認知症スケール(テスト)のスコア
➀長谷川式認知症スケール(テスト)は、30点満点のテストで、20点以下だった場合、認知症の疑いが高いと言われています。
裁判例の傾向としては、長谷川式認知スケール10点以下では、遺言能力を認めないことが多い一方で、長谷川式認知スケール20点以上では、遺言能力を認める可能性が高いと考えられております。
ただし、長谷川式認知症スケールのスコアを重要な証拠にしている裁判例もあるものの、参考程度に位置付けている裁判例も多いと考えられます。 - ②要介護度
②要介護度は、日常生活においてどの程度の介護を必要とするかという程度を認定したものですが、主に介護に要する時間の長さを基準として判断されます。
したがって、認知症などがなくても身体が不自由である場合には、要介護度が高くなることはあり、遺言能力の有無・程度と要介護度とは観点が異なることがあります。
一方で、前述したとおり、要介護度の認定するために収集・作成される資料である介護認定記録は、遺言能力判断にとって重要な資料となることが多いです。 - ③成年被後見人であること
③成年被後見人は、精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた者のことをいうため、一般的には③成年被後見人であることは遺言能力を欠いているおそれがあることを意味するものと考えられます。
この点、民法上では、成年被後見人が遺言をするためには、事理を弁識する能力を一時的に回復した場合において、医師2人以上が立ち会う必要があると定められています。
また、立ち合いをした医師は、遺言者が遺言をするときにおいて、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならないこととされています。
ただし、裁判例においては、成年被後見人のした公正証書遺言について遺言能力ありと判断したものがある(名古屋高判平成9年5月28日)一方で、被保佐人のした公正証書遺言を無効と判断したものがあります(福岡高判平成14年3月28日)。
したがって、③成年被後見人であることが必ずしも遺言能力の判断に直接影響するわけではないことには留意する必要があります。 - ④公正証書遺言であること
公証人は、遺言者の遺言能力がないことが明らかな場合には、公正証書遺言の作成を拒否することができますが、それ以外は作成する義務があります。
したがって、公正証書遺言をしたことは、必ずしも遺言能力を認めることにはなりません。
なお、公証人は、遺言能力に疑義があるときは、遺言の有効性が訴訟や遺産分割審判で争われた場合の証拠保全のために、診断書等の提出を求め、又は、本人の状況等の要領を録取した書面を保存するものとされています。
よって、効力に疑義のある公正証書遺言に関しては、公証人に作成時の記録があるか確認し、開示を求めることが考えられます。 - ⑤主治医の診断書等があること
⑤主治医の診断書は、遺言能力を判断する有力な証拠の一つであり、過去の裁判例においても、主治医の意見書を重視している裁判例は多数存在します。
ただし、主治医が遺言書の作成に関与する相続人に肩入れしていると考えられるケースもあるため、中立性に欠けるおそれもあります。
さらに、診断書を作成した主治医が認知症専門医でないどころか、認知症についての診療経験が乏しいケースもあることに留意する必要があります。
- ➀長谷川式認知症スケール(テスト)のスコア
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遺言の有効・無効の主張を弁護士に依頼した場合の費用
(基本調査)
※預貯金取引明細、介護記録、医療記録等の資料を取り寄せの上検討し、訴訟等の対応を行う場合の費用・見通し等をお伝えさせていただきます。
(着手金)
※基本調査を行った場合は、11万円~(消費税込)。
※基本調査を行った場合は、22万円~(消費税込)。
(報酬金)
・報酬金:経済的利益の7.6%~17.6%(消費税込)を基準として、案件に応じて決定させていただきます。
※着手金及び報酬金は、基本的には(旧)日本弁護士連合会弁護士報酬基準を参考とし、個別事情を考慮して決定させていただきます。