成年後見制度について
成年後見・家族信託Contents
成年後見制度
はじめに
本コラムでは、成年後見制度について、淡路島の弁護士が解説いたします。
成年後見(制度)とは、認知症、知的障がい、精神障がいなどの精神上の障害により判断能力が十分でない方の権利を擁護する後見人などを付ける制度です。
成年後見は、判断能力が十分でない方の判断能力を補い、本人に損害が生じることのないよう、預貯金・株式・不動産等の財産や収支の管理、介護・福祉サービス・医療契約・施設利用契約などの締結、遺産分割協議、不動産売買などを行ったり、消費者被害が生じることを防止し、生じた被害を回復することを目的として利用されます。
成年後見には、法定後見と任意後見があります。
成年後見制度に関しては、裁判所HPにおいて、手続説明・後見人等の事務に関する動画がありますので、こちらもご参照ください。
成年後見制度の概要
1 「法定後見と任意後見」
1 法定後見
「法定後見」は判断能力が衰えてから裁判所により後見人を選任してもらう制度です。
「法定後見」には、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」以外にも「補佐」、「補助」の制度があります。
「法定後見」において「後見人」は家庭裁判所により選任されます。
「法定後見」における「後見人」には、親族が後見人になる「親族後見人」と弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が後見人になる「専門職後見人」があります。
「専門職後見人」の中でも弁護士が後見人に選任される場合には、法的紛争が生じている案件や、苛烈な親族紛争・虐待などが生じている困難案件であることが多いです。
一方で、財産が少なく、紛争性も低い場合、通常は成年後見開始審判の申立人である親族が成年後見人(「親族後見人」)に選任されることが多いです。
また、実務上、身上監護は「親族後見人」、財産管理は「専門職後見人」とする複数後見人の選任が行われることもあります(この場合、後見制度支援信託を利用(「専門職後見人」が信託契約を締結)し、「専門職後見人」は辞任するという方法が行われることも多いです。)。
2 任意後見
「任意後見」は、判断能力が十分なうちに判断能力が衰えたときに備えて、あらかじめ将来の身上監護・財産管理を委託し、代理権を付与しておく制度です。
「任意後見」においては、本人(被後見人)は、任意後見人と契約できる判断能力があるうちに、自ら任意後見人受任者を決定・依頼することができます。
「任意後見」においては、任意後見人は任意後見契約の内容に従って後見業務を行うため、本人の希望に応じた支援を受けることができます。
「任意後見」は、判断能力が衰え、任意後見監督人が選任された時から効力を生じます。
「任意後見契約」は法務省令で定める様式の公正証書によって締結される必要があります。
2 「法定後見の流れ」
1 申立て
「法定後見」は、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、市区町村長などの申立てにより、開始します。
このうち、市町村長による申立ては、65歳以上の者について、「その福祉を図るため特に必要があるとき」に限られています。
申立てにおいて、申立書(家庭裁判所所定の書式)のほか、申立事情説明書、後見人等候補者事情説明書、財産目録・収支予定表、親族関係図、戸籍謄本・住民票、登記されていないことの証明書、申立手数料(収入印紙)、登記手数料(収入印紙)、郵便切手等を提出するほか、(成年後見用)診断書や障害者手帳、介護認定書類(主治医意見書など)、本人情報シート(福祉関係者)などの本人の健康状態に関する資料を添付し、本人の判断能力の程度を明らかにして行う必要があります。
また、親族(推定相続人)の(成年後見に対する)意見書を添付することで、申立て後の親族照会手続が省略されます。
鑑定を行う必要がある場合、鑑定料(5万円から10万円程度)が必要になります。
なお、申立人からの上申により、上記手続費用を本人の負担とする審判がなされることがあり、成年後見人選任後は事務管理の法理によって手続費用の返還請求をすることができるとされています。
2 家庭裁判所による審判
家庭裁判所は、申立人、本人、後見人候補者などの面接、状況の調査、親族への意向確認、必要に応じて医師による鑑定を実施するなどして、後見開始の審判を行います。
後見開始の審判では、成年後見人等を決定し、本人や成年後見人に通知します。
3 審判の確定・成年後見人などの活動開始
審判から2週間経過することで、審判は確定します。
家庭裁判所は、後見開始・成年後見人選任の登記嘱託を行って、成年後見の登記がなされます。
家庭裁判所に選任された「後見人」は、速やかに申立人と面談するなどし引継ぎを受け、本人の預貯金口座について後見登録設定をします。
また、家庭裁判所に対して審判日から2か月以内に初回報告書を提出します。
初回報告書には、財産目録、年間収支予定表を作成し、添付します。
4 後見人の業務
後見人は、主に、財産管理(預貯金・不動産・株式などの管理)と身上監護(福祉サービス契約の締結など)を行います。
後見人はその後も家庭裁判所に指定された月に年1回、定期報告を行います。
定期報告には財産目録と収支予定表を作成し、添付します。
家庭裁判所は、定期報告のほかにも、いつでも成年後見人に対して後見の事務の報告・財産目録の提出を求めたり、後見の事務・財産の状況を調査することができ、後見人の業務を監督します。
また、後見人が本人の居住用不動産を処分(売却、賃貸借、リバース・モーゲージの利用など)する場合、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
なお、「後見人」の報酬は、家庭裁判所が後見人の業務内容や被後見人の資力などの事情から、具体的な金額を定め、本人の財産から支払われます。
報酬は、基本報酬が月額2万円であり、管理財産が1000万円を超えると月額3万円~4万円、5000万円を超えると月額5万円~6万円が目安です。
後見は、本人が判断能力を回復するか、本人の死亡するまで継続します。
5 後見の終了
後見人等の辞任・解任、本人の死亡、本人の能力回復による審判の取消などによって、後見は終了します。
本人が死亡した場合、後見人は後見終了登記、管理の計算などをした上で、家庭裁判所に対して2か月以内に死亡時終了報告を行って、相続人に管理財産を引き継ぎます。
なお、後見人は一定の死後事務をする権限を持ち、家庭裁判所の許可を得て、葬儀に関する契約の締結などをすることができます。
3 「任意後見の流れ」
1 任意後見契約締結
任意後見人受任者と協議して、任意後見の内容などについて話し合い、任意後見契約を締結します。
「任意後見契約」は法務省令で定める様式の公正証書によって締結される必要があります。
公証人は法務局に登記します。
2 申立・任意後見人の活動開始
本人の判断能力が衰えた段階で、本人・配偶者・4親等以内の親族・任意後見受任者は、任意後見監督人の選任申立てを行います。
申立てにおいては、「法定後見」と同じく、申立書(家庭裁判所所定の書式)のほか、申立事情説明書、親族関係図、任意後見受任者事情説明書、財産目録、収支予定表、戸籍謄本・住民票、申立手数料(収入印紙)、郵便切手、診断書(主治医等)、本人情報シート(福祉関係者)等を提出します。
また、任意後見契約公正証書の写しを提出する必要があります。
審判を行うにあたり家庭裁判所は、本人の陳述と、任意後見監督人によるべき者の意見、任意後見受任者の意見を聴かなければなりません。
家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されることにより、任意後見人の活動は開始します。
任意後見監督人には、利害関係のない専門職が選任されることが通常です。
3 任意後見人の業務
任意後見人の行う事務の内容と範囲は、任意後見契約により定まります。
例えば、任意後見人が授権の範囲で本人の居住用不動産を処分する場合、法定後見と異なり、家庭裁判所の許可を得ることは不要になります。
任意後見人は、任意後見契約の定めに従って、定期的に任意後見監督人へ後見事務・本人の財産の状況の報告を行い、監督を受けます。
また、任意後見監督人は、任意後見法に従って、いつでも、任意後見人に対し任意後見人の事務の報告を求め、又は任意後見人の事務・本人の財産の状況を調査することができます。
なお、任意後見監督人の報告の指示がなく、任意後見契約に定められた報告期限が到来していなくても、不動産を処分したり、多額の財産変動があらかじめ予定される場合、本人の財産から本人以外の物に利益を与える場合(親族に対する贈与・扶養などを行う場合)、任意後見人は任意後見監督人に対する報告を行うべきです。
任意後見人は任意後見契約に従って、本人の財産から報酬及び費用の支払を受けます。
これに対し、任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所が具体的な金額を定め、本人の財産から支払われます。
任意後見監督人の報酬は、管理財産が5000万円以下の場合、月額1万円~2万円、5000万円を超えると月額2万5000円~3万円が目安です。
4 任意後見の終了
任意後見契約の解除、法定後見への移行、任意後見人の解任、本人の死亡などによって、任意後見は終了します。
成年後見申立てを弁護士に依頼した場合の費用
・16.5万円~(消費税込)
※別途、実費(申立手数料、戸籍・住民票・診断書等の取得費用、鑑定費用)が生じます。
任意後見契約を弁護士に依頼した場合の費用
・22万円~(消費税込)
※別途、公正証書作成手数料、任意後見監督人選任申立費用などが生じます。
※任意後見人としての月額報酬は、3万3000円~(消費税込み)
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